米国の自然とバンダリズム


 広大な自然に恵まれた米国でも一部の自然公園では最近は混雑に悩まされることが珍しくない。グランドキャニオンやヨセミテなどでは特に混雑が顕著で週末には渋滞が発生する。観光客の増加に伴い環境破壊も問題視されるようになっている。一部ではかつて自由に入れた場所に立ち入り制限をするようになった。不注意による環境破壊とは別に意図的な破壊行為も古くから知られており、調査・対策がなされている。そのような破壊行為はバンダリズム (Vandalism) と呼ばれる。かつてローマに侵攻したバンダル族の略奪行為に由来する。国立公園に限らないが、バンダリズムの対象になるのは考古学的な遺跡であることが多いようである。このような行為が宗教的あるいは政治的な思想に基づくものなのか、あるいは単なる愉快犯なのかは分からないがおそらく後者が多いのではないかと思う。以下に紹介するのは保護されている場所の一例である。




写真1:False Kiva
急斜面に面した洞窟内にあるこの場所の眼前には雄大な景色が広がる。
環境保護のため正確な場所は公開されていない。



False Kiva, Canyonlands National Park, Utah
 False Kiva という名称は、本物のKivaかどうか定かではないことに由来する(Kiva はアメリカ先住民が宗教上の儀式に使用した場所を意味する)。キャニオンランズ・ナショナルパークの一部に位置するが、環境保護のため正確な場所は公開されていない。 "Archaeological Site Classifications Class II" とよばれる区分に分類され、準保護状態に置かれている。その結果、一般の地図には載っていないが立ち入り禁止というわけではなく、パークレンジャーは情報を求められた場合は提示することを義務付けられている。
 Web 上には様々な情報が投稿されており、レンジャーに情報提示を拒否されたとか、アクセスポイントから徒歩で3時間以上かかったなどの情報がある(実際には道に迷わなければ1時間弱で着く)。GPSデータもWeb 上で見かけるが正確ではないようである。私が最初に行った時には、Google Earth で大体の場所を特定してプリントアウトを持参し、どうしても行くぞという雰囲気で聞いたところ、レンジャーは快く情報提供してくれた。ただし、トレイルの地図がもらえるわけではなく、普通の地図を使って大体の場所を示され、口頭で道の概略と何枚かの写真を見せられるだけである。トレイルヘッドにも標識などはないので気をつけて探さないとわからない。それでもときどき人が入るので、けもの道のような跡とわずかな足跡があり、トレイルヘッドだと認識できる。その道も足跡は途絶えがちであり、大体の方向とレンジャーから聞いた情報を頼りに進むことになる。トレイルヘッドから30分ぐらい平坦な道を歩くとメサの端の急斜面に出る。False Kiva は絶壁のくぼみに作られているが真上から降りることは不可能である。到達するには急斜面をトラバースして下側から回り込むことになる。急斜面に出てから30分程度、トレイルヘッドから1時間弱で到着する。
 絶壁の一部にできた天然の洞窟は広くはないが岩の屋根が風雨を防いでくれる。歩いてきた道の複雑さを考えると、先住民はよくこんな場所を見つけたものだと不思議な気分にさせられる。奥からカメラを構えると、Kivaと岩の天井、そして遠くの岩などがバランスの良い構図に自然に収まる。



写真2:False Kiva への道
けもの道のような道が続くが足跡は不明瞭である。



Petroglyphs
 ペトログリフ。岩石や洞窟内部の壁面に、意匠、文字が刻まれた彫刻を意味し、日本語では岩面彫刻、岩絵とも呼ばれる。世界各国で報告されているが、米国では主に中西部で見られる。キャニオンランズにある Newspaper Rock は2,000年前にアメリカ先住民が残したとされる。

Newspaper Rock, Canyonlands National Park, Utah
 キャニオンランズの Needles 地区へのルートの途中にあり、US191から12マイルのところにある岩絵。周りを柵に囲まれていて触れることはできないが一般に広く公開されている。



写真3:Newspaper Rock
その名前の由来は写真を見れば明らかである。柵の外から撮影



写真4:3の写真の拡大



写真5:
この写真はモアブの近くの別の場所にある岩絵。
標的にされたらしく弾痕らしい跡がある。


(2012.11.23)

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