砂漠の表土;Biological Soil
キャニオンランズ、アーチズ等のユタ州の砂漠地帯を歩いていると、地面がふっくらと盛り上がっている土壌状態をよく見かけます(写真)。“Biological
Soil Crust” という専門用語で呼ばれています。適当な日本語訳がありませんがバクテリアの活動によって形成されるものであり、「生物性の表土」という意味です。触れるとサクサクした感触で簡単に崩れてしまい通気性が非常によい印象です。「生物性の表土」は主としてシアノバクテリア(cyanobacteria)により形成されますが、地衣類やコケ類なども関係するとされています。雨により地面が湿気を含むとバクテリアは土や岩の粒子をかみ砕き、繊維状の物質を生成します。その結果、土壌の粒子が結合され、風や水の浸食に対して強い表土を形成します。こうした土壌を結合させる行為は相当の年月を要し、粒子の細かい土壌を安定させ、地面に10cmくらいの層を形成します。
一見栄養分に乏しい泥のように見えますがこの一帯の植生にとっては非常に重要であり、実際、この土壌は水分や栄養分を保持するのに都合がよい構造のようです。この状態を破壊しないように旅行者はむやみに歩き回らないように注意を促す看板を見かけます。踏みつけて破壊されると元の状態に戻るには最高の条件でも数年を要し、最大で50年を要するとのことです。スクレロカクタスはこの土を好んで生えています。
写真:“Biological Soil Crust” 微生物の活動により形成されたふっくらした表土。スクレロカクタス、オプンチア等のサボテン、その他の植生が居心地よさそうに生息する。
人手による栽培環境(温室あるいは屋外でも鉢植えのもの)は数年ごとに移植することが必要と言われています。一方、野生の植物は移植しなくても元気に育っています。鉢植えの培養土は時間の経過に伴い老廃物が蓄積して質が低下しますが、自然界では微生物や雨の恩恵を受け、土壌は常に一種の新陳代謝を行っていることによります。自然の生態系の絶妙なバランスには敬服せざるを得ません。
(2013.02.11)
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