ある現代型サラリーマンの1日

 X氏は東京近郊に住む会社員である。モバイル端末とインターネットによる通信インフラをベースにした社内ネットワークを構築し、それに基づく意思疎通を前提として業務を遂行することを特徴とする会社のサラリーマンだ。本社が米国にある調査会社に勤務している。上司は米国本社のアメリカ人なので毎日メールでやり取りしている。報告も基本的にメールで行う。メールでは足りない場合はインターネットを利用したビデオ会議をすることもある。ビデオ会議といったって大した話じゃない。最近は誰だって使っているSKYPE を利用しているだけだ。少人数ならこれで十分に要が足りる。相手が海の向こうだって関係なしだ。自宅からだって話ができる。全く便利な時代になったものだ。24時間働くサラリーマン向きの環境だ。
 今朝も出社してメールを開くと指示が来ていた。「おはよう、調子はどうだ?今日の仕事はA社の依頼による調査だ。添付の資料を見てこの技術に特許性があるかどうか至急調査してくれ。期限は8時間だ。今日中にレポートをまとめてメールで提出してくれ。クライアントへの提出期限は明日だから間違いなく今日中にたのむ。では、幸運を祈る。」
 やれやれ今日も忙しくなりそうだ。メールのタイムスタンプは1時間前じゃないか。現地は夜の10時だ。おそらく彼は自宅からメールしたのだろう。そういえば先日SKYPE で話した時には後ろで家族の声が聞こえていた。彼はあくびしながら話していたな。家族はどう思っているのか多少気にはなる。まあ、どこにいてもコミュニケーションできるから別に自宅で仕事をしてもかまわないが。全く便利な時代になったものだ。彼はこれから寝るのだろうが私はこれから仕事だ。彼が出社する頃には私はメールでレポートを送付済みの予定だ。時差をうまく使って休みなく働くというわけだ。

 Y氏も同社の社員であって、モバイル端末をさらに備え、移動中でもメールをチェックし、休みの日でも応答できることを特徴とするサラリーマンだ。彼は体力があるから睡眠時間3時間なんて当たり前だ。休日でも夜中でもメールを送ってくることが珍しくない。

 Z氏もモバイル端末を備えた社員であって、在宅勤務で仕事をし、必要に応じて出社することを特徴とするサラリーマンだ。これなら通勤時間を節約して仕事に充てることが可能だ。彼らのような人がいるから会社が成り立っているのだ。まさに24時間どこでも働くサラリーマンの鏡だ。

 私が就職した時代はメールなんてなかったからまさに隔世の感とはこのことだ。これから10年後にはどうなっているかな。自分の予想だと次はウェアラブルコンピュータの時代だ。スマートフォンは腕時計タイプになり、小型のイヤホンとマイクも併用だ。これで音声認識による入力だって可能だ。両手がふさがっていても仕事ができる。電車の中だってベッドの中だって関係なく仕事ができる。何?それじゃ周囲が迷惑するだろうって?あまいあまい。そのうちしゃべらなくたって舌の動きや脳波で入力できるようになるかもしれない。そうなれば眠っていても仕事ができる。文字通り夢のような話だが不可能とは言い切れない。早くそんな時代になってほしいものだ。何?おまえは何のために生きているのかって? かつてこういうことを言った人がいるのを知らないのか。「人は生きるために働くのではない。働くために生きているのである。」名言だろう。全く同感だ。ただし、家族がどう思うかちょっと気にならないでもないが。さて気が付いたらもう寝る時間か。その前にメールをチェックしておこう。。
(2012年12月1日)

(この話はフィクションです)



トップページへ戻る