「3年目のシーズンに入って私は自分のポジションを不動のものにしまた、チームも優勝争いをしていて知らないうちに私も有名になってしまって・・・・・
スペインでは私の名前を知らない人はいないと言われるぐらいだったんです、そして名前が売れるにつれて周りの環境、特に交友関係にはすごく変化がありました、ほとんどが頭に超がつくぐらいに有名な人達でその職種はデザイナー、画家、F1ドライバー、俳優、と様々でした、こうやって見ると一見華やかでしょうがそれにまぎれて悪い人間達も近寄ってくるんです、まぁいわゆるパパラッチなんかの私の名前を使って一儲けしようっていう人間がほとんどなんですが、そんな中でも最もたちの悪いのが・・・」
「マフィアですね」
「そう、よくご存知ですね、いやぁマスターいろいろ知ってるんだなぁ」
「それでどうなったんですか?」
「それで・・・・私はチームの軸になってる選手でしたから当然敵は私をつぶしに来ます、まぁゲームの中ではそんな事当たり前なんですが、しだいにそれは私生活まで及ぶようになってきました、新聞社の人間を買収してでっち上げの記事を書かせたり、パブなんかに飲みに行くと執拗にドラッグを勧めてくるようなことが増えてきて、もう一度言いますが、これは私を潰す目的でライバルチームが買収した人間を送りこんでいるんです、そしてとうとうマフィアが接触してきました、ライバルチームの名前を挙げてこう言ったんです、もしその試合で勝つような事があったらおまえの恋人の命は保証できないと、私はすぐに恋人に3人のSPを付けました、そしてその指定された試合の日、ロッカールームに張り出されたベンチ入りのメンバーの中に私の名前はなかったのです、私はもうこのチームでサッカーをする事が出来ないんだと言う事を知りました、監督はその2日後に辞任、私と同じようにマフィアに脅されてたみたいです、そして99年のオフにフランスのマルセイユに移籍しました」
彼はそこまで話した後、ウィスキーの横の水を一口飲み更に話を続けた。
「フランスに行けばすべてが変わる、そう信じて私は恋人にプロポーズしました、そしてその年のリーグが終わったら結婚する約束をしました、サッカーの方も順調でしたし、レギュラーに定着して大観衆の中でプレーしその観衆の中にいる将来の妻になる恋人に手を振る、それは何よりも幸せな時間でした、でも・・・」
彼は下を向いたまま、ため息を漏らしながら首を横に降った。
「またマフィアですか?」私は思わずそう聞いた。
「ええ、半年後にはまた前のように恐怖に怯える生活を余儀なくされました」
そう言ったあと彼はジャケットの内ポケットから1枚の写真を取り出して私に見せた。
「バルセロナで知り合った・・・・フラメンコダンサーだった恋人です」
ため息が出るほど美しい、そんな使い古された言葉を口に出す気にはなれないほど美しい女性だ。スペイン人特有の深い目で遠くを見ている。
「今彼女はどちらに?」
話の核心をつく質問だった。私があまりにも無造作に切り出した事に彼は少々動揺した様子だったが、またゆっくりと告白を続けた。
「優勝を決定する試合でした、その試合で私は前半に1点を決め、完全に相手を圧倒し優位にゲームを進めてました、後半もこの状況は変わらないだろう、そういう雰囲気です、それで、たぶん後半の15分ぐらいだったと思います、突然監督に交代を命ぜられたんです、私はまったく理解できずにベンチに下がるなりすぐに監督につめよりました、完全に冷静さを失った私はその時マネージメントをつとめていたホセに引っ張られロッカールームに連れて行かれました、それでも私の怒りはおさまるわけありません、今度はホセにくってかかろうとしました、でも、その時ホセが目に涙をいっぱいにためていることに気付いたんです、そしてホセはゆっくりと私に言いました、たった今、君の彼女が殺されたよ、と」
オールドクロウの入ったグラスに彼の涙が落ち、小さな琥珀色の波紋が手のひらに落ちた雪のように、現われてはすぐに消える。
「すみません、オレどうしようもなくセンチメンタルな人間なんです」
「私も一緒ですから」
「ありがとうございます、さいわいその時けっこういいお金もらってたんで、今こうやって一人で旅して周ってるんです」
「じゃぁ、この店に来たのもひとつの運命ですね」
「そうですね」
今度は彼も笑った。屈託がなく人懐っこそうな笑顔だ。
「私はこの街が気に入りました。どことなくマルセイユに似ているし」
「それはうれしい」
「マスター、お願いがあるんですがいいですか?」
「ええ、私に出来る事であればどうぞ」
「ビリー・ホリデーっていう黒人の歌手がいますよねぇ?」
「ええ、私の大好きな女性ヴォーカルの一人ですが」
「よかった、その人の歌ってるYesterdaysっていう歌をかけてもらえないでしょうか?」
私は、はっとした。私も同じことを考えていたからだ。
絶妙なコンビネーションとイマジネーションで意思を吹きこまれたボールは想像をはるかに超えたプロセスとフィニッシュを生み出す。それはあまりにも美しすぎる。それらが創り出す時空間の歪みのようなものは瞬間的に広がりすぐに収束する。そしてまた人は、美しいものを求める。生活の中でもそういう事が起こる。
ビリー・ホリデーの小刻みなビブラートがセンチメンタルな二人の男のデリケートな部分を刺激し、ゆっくりと胸の辺りの奥深くにある隙間を満たしてくれる。<<back
Yesterdays, Yesterdays
過ぎ去りし日々、あの懐かしき日々
Days I know as happy, sweet, sequester'd days
Olden days, golden days
Days of mad romance and love
Then gay youth was mine, truth was mine
Joyous, free and flaming life, forsooth, was mine
Sad am I, glad am I
For today I'm dreaming of yesterdays
幸せで甘美で世間の事を忘れていた頃
遠くに過ぎ去った時間、黄金のように輝いていた時間
狂おしい恋と静かな愛のとき
そして楽しき青春と真実を私は手にした
悦びにみちた自由で燃え立つような生活が確かに私のものだった
想えば悲しく、想えば楽しい
今私は過ぎ去りし日々を夢に見、憧れているゆえ