首吊標識(3種)
<首吊り禁止> | <この先首吊り中> | <首吊り注意> | ||
あたりまえすぎて今ひとつインパクトに欠けますね。こんな標識を見かける世の中にはなって欲しくないですな。 | 公開自殺宣言。 馬鹿馬鹿しくてイイ感じ。 |
それらしく言うと、 「これより先 首吊の恐れあり」 でしょうか。 待てよ、大穴で 「首吊り多発注意」ってことも… |
**県、切立岩岬。観光をしにに来るほどの場所ではない。しかし、ここには目的をもって訪れる人も少なくは無い。鬱蒼とした林を抜けるとぽっかりひらける場所、そこは岬の突端、波に侵食され、えぐれて大きく突き出した岩場は海面からゆうに30mはあり、まだ侵食されきっていない岩が木立のように海面からにょきにょきと生えている。また、そのような不規則な岩場が広い範囲に渡り沖合いまで続いているため、海流は複雑怪奇を成し、地元の漁師ですら近づくことは困難を極める。当然、この海流に飲まれたものが打ち上げられることは皆無に等しい。そう、ここは言わずと知れた“自殺の名所”である。
後を絶たない自殺者に頭を痛めた役場では、1人でも自殺者を減らすために看板をつくり、岬へ設置することにした。
ところがこの看板を岬へ設置しにいったのが少々頭の弱い男で、うっかり看板の向きを前後逆に立ててしまいそのまま気付かずに帰ってきてしまった。
その夜のことである。
1人の男が立ち入り禁止の柵を乗り越えて林へ入っていく。
「俺は…もう駄目だ。死んだほうがいい。死ぬのが一番いいんだ…」
男は林を抜け、岬へ出ると岩場へとふらふら歩いて行く。
看板の背中が目に入るが気にもとめない。
岩場の突端についた。
眼下には暗黒が渦を巻き、見ているだけで吸い込まれそうだ。
死ぬつもりのない人間でもここに立つと思わず闇に吸い込まれ、身を投げ出しそうになる。
自殺の名所とはそんな所なのかもしれない。
(あと一歩、歩を進めればすべてが終わる…)
男は目を閉じた。
と、脳裏に両親の姿が思い浮かぶ。
家族の姿が思い浮かぶ。
旧友達の姿が思い浮かぶ。
俺は本当にやれることを全てやったのか?
俺は本当に死ぬ以外の全てのことをやったのか?
最善をつくしたのか?
その結果が自殺か?
死ねばそれでいいのいか?
死んでいいのか?
は、と男が眼を開いた。
数歩あとずさる。
(やめよう…。)
振り向いて岬に背を向ける。
と、先ほどは気付かなかったが眼に前に看板がある。
月明かりが看板を照らす。
「早まるな!もう一度考え直せ!」
男は、おおきくうなずくと、
虚空に身を躍らせた。