北畠顕家の妻の歌
そしてAの歌は、奥様が観心寺で出家されて詠まれた歌です。
| そむきても 猶忘られぬ面影は うき世のほかの ものにやあるらむ |
この歌を初めて見た時は、「忘れようとしても忘れられない面影は、この世にいらっしゃらない方(=顕家様)の面影です。」という意味と思っていたのですね。後に“そむく”=“出家する”という意味と知りましたが・・・
で、これも国立国会図書館デジタルコレクション『吉野拾遺詳解』(大正14)によると、
「世を捨てても、なお忘れられない面影は、それは浮き世の外のものでありましょうか」
となっていました。古語辞典をひくと、下記のようになってました。
| 「そむく」=背中を向ける。反対をする。別れる。出家する。違う。 「にや」=・・・であろうか。 |
顕家様の奥様は、ここで3年ほど過ごされましたが、世の騒ぎが少し治まったので、さすがに故郷のことが思い出されたらしく、吉野山を出ることにされたそうです。その時の歌がBです。
| いづくにか 心とゞめむ みよしのの よしのゝ山を いでてゆく身は |
「(昔から世捨て人は皆、吉野山へ行ったが、今、)この吉野山を出ていく私はどこに心を止めようか」
| 「いづく」=何処 「三吉野」=吉野地方の美称 |
そして、舅つまり顕家様のお父様の親房卿の所に少しの間いらっしゃって、明け方に出立されたそうです。名残惜しさもあって、後ろを振り返られた時に、有明の月が山の端にくっきりと見えたので、Cの歌を詠まれたようです。
| 別るれど あひもおもはぬ みよしのゝ みねにさやけき 有明の月 |
『吉野拾遺詳解』には、かなり補足した歌の意味が書かれています。
「世を捨てた身ゆえ、夫婦ではあるが互いに思い合わぬ身でありながら、峯にさやけく照り輝いている有明の月を見ると、流石に色々の事が思い出されて夫が恋しく名残惜しくなってくる。」
| 「別る」=別れる。離別する。死別する。 「あひ」=互いに。 「さやけし」=清い。けがれがない。明るい。 「有明け」=残月のある夜明け頃。 |
古語辞典を引いた意味からだと、
「死に別れると、お互いに思い合うこともできないのね。吉野の峰に輝く有明けの月よ。」
ってな感じかな〜と思いますが。