北畠顕家奏状
第七条
| 原文 | 読み下し文 | 訳文 |
| 可被除無政道之益寓直輩事 右為政有其得者、雖芻蕘之民可用之、為政有其失者、雖閥閲之士可捨之、頃年以来卿士官女及僧侶之中、多成機務之蠧害、動黷 朝廷之政事、道路以目衆人杜口、是臣在鎮之日、所耳聞而心痛也、夫挙直措枉者聖人之格言也、正賞明罰者明王之至治也、如此之類不如早除、須明黜陟之法闢耳目之聴矣、 陛下不従諫者泰平無期、若従諫者清粛有日者歟、小臣元執書巻不知軍旅之事、忝承 |
政道の益なき寓直(ぐうちょく)の輩を除かれるべき事 右、政のためその得あらば、芻蕘(すうじょう)の民といえどもこれを用いるべし。政のためその失あらば、閥閲(ばつえつ)の士といえどもこれを捨つべし。頃年(としごろ)以来、卿士・官女および僧侶のうち、多く機務の蠧害(とがい)をなし、ややもすれば朝廷の政事を黷(けが)す。道路目を以てし、衆人口を杜(ふさ)ぐ。これ臣鎮に在るの日、耳に聞きて心に痛むところなり。それ直を挙げて枉に措(お)くは、聖人の格言なり。賞を正して罰を明らかにするは、明王の至治なり。かくのごときの類早く除くにしかず。すべからく黜陟(ちゅつちょく)の法を明らかにし、耳目の聴を闢(ひら)くべし。陛下諫に従わざれば、泰平期するなからん。もし諫に従わば、清粛(せいしゅく)日あるものか。小臣、もと書巻を執りて軍旅の事を知らず。忝(かたじけな)くも ふっ詔(しょう)を承り、艱難の中に跋渉(ばっしょう)す。再び大軍を挙げて命を鴻毛に斉(ひとし)うす。幾度か挑み戦いて身を虎口に脱(のが)れし、私を忘れて君を思い、悪を却け正に帰せんと欲するの故なり。もしそれ先非改めず太平致しがたくば、符節を辞して范蠡(はんれい)の跡を逐い、山林に入りて以て伯夷の行を学ばん。 |
政治に無益な者を除くべきである。 政治に役立つのならば、例え草刈りやきこりのような庶民であっても登用すべきである。逆に政治に害を成す者は名門の家の者であっても排斥すべきである。 最近、貴族、女官及び僧侶の中に、最も重要な政務を多くむしばみ、ともすれば、朝廷の政治を汚している者がいる。民衆は口に出せないので、道路で目配せをすることで悪政を非難している。このことを奥州において耳に入れ、心が痛んだ。 「正しく、まっすぐな者を登用し、まがった者を退ければ、国民は従う」というのは、孔子の格言である。報奨を正しく行い、罰を明らかにするのは賢い君主の非常に行き届いた政治である。政治に害をなすような類の者は早く除くにこしたことはない。 速やかに官位の昇降の法を明確にし、監察のための官庁を設置するべきである。 陛下が諌めに従わなければ、陛下の御代において泰平は望めないだろう。もし、陛下が諌めに従えば、清粛の日は期して待つべきである。 おそれながら私はもともと文官であるので、戦のことは知らなかったが、もったいなくも、陛下より詔を賜り、艱難の中、諸国を遍歴した。 二度も大軍を挙げて、命が鴻の羽毛のように軽いものでしかない危険な状況に身をおいた。 幾度か戦いに挑んで、虎口から脱れたのも、私心を忘れて、陛下を思い、悪を退け、正道に帰そうと願うからである。 もし、先に述べた不正を改めず、泰平の世をなすことが困難であれば、范蠡のように官を退いて、山林に入り伯夷のように隠遁したいと思う。 |
| 第一条 | 第二条 | 第三条 | 第四条 |
| 第五条 | 第六条 | 第七条 | 結びの言葉 |