北畠顕家奏状
第四条
| 原文 | 読み下し文 | 訳文 |
| 可被定月卿雲客僧侶等 朝恩事 右拝趨 朝廷昵近帷幄、朝々暮々咫尺 竜顔、年々歳々戴仰鴻慈之輩、縦尽其身争報 皇恩、爰国家乱逆宸襟不聊、或移乗輿於海外或構行宮於山中、作人臣而竭忠義者此時也、然而存忠守義者機許乎、無事之日貪婪大禄、艱難之時屈伏逆徒、非乱臣賊子而何或、罪死有余、如此之族何以荷負新恩乎、僧侶護持之人又多此類也、逮于辺域之士卒者、雖未染 王化、正君臣之礼懐忠死節之者不可勝計、恵沢未遍政道一失也、然者以無功諸人新恩之跡、可分賜士卒歟、凡以元弘以来没官地頭職者、被閣他用配分有功之士、以国領及庄公等本所領者、被擬宦官道俗之恩者、朝礼不廃勲功不空者歟、抑又累葉之家々不忠之科雖可悪、偏廃黜其人者、誰又弁朝廷之故実刷冠帯之威儀乎、近年依士卒之競望、多収公相伝之庄園、理之所推縡非善政、然者於累家私領者須被返其家、随公務之忠否追可有黜陟也、至今度陪従之輩 |
月卿・雲客・僧侶等の朝恩を定めらるべき事 右、朝廷に拝趨(はいすう)し、帷幄(しあく)に昵近(じっこん)し、朝々暮々竜顔に咫尺(しせき)し、年々歳々鴻慈(こうじ)を戴仰(たいぎょう)するの輩、たといその身を尽くすとも、いかでか皇恩を報ぜんや。ここに国家乱逆(らんげき)して、宸襟聊(たやす)からず。或いは乗輿を海外に移し、或いは行宮(あんぐう)を山中に構う。人臣と作(し)て、忠義を竭(つく)さんはこの時なり。しかれども、忠を存じ義を守る幾許(いくばく)ぞや。無事の日は大禄を貪婪(たんらん)し、艱難(かんなん)の時は逆徒に屈伏す。乱心賊子にあらずして何ぞや。罪死して余りあり。かくのごときの族、何を以て新恩を荷負(かふ)せんや。僧侶護持の人、また多くこの類なり。辺域の士卒に逮(およ)びては、いまだ王化に染まずといえども、君臣の礼を正し、忠を懐き、節に死するの者、勝計すべからず。恵沢いまだ遍(あまね)からざるは政道の一失なり。しかれば功なき諸人の新恩の跡を以て、士卒に分ち賜うべきか。およそ元弘以来没官の地頭職を以ては、他用を閣(さしお)かれて有功の士に配分し、国領および庄公等の本所領を以ては、宦官道俗の恩に擬せられば、朝礼廃(すた)れず勲功空しからざるものか。そもそもまた累葉の家々不忠の科は、悪(にく)むべしといえども、偏えにその人を廃黜(はいちゅつ)せば、誰かまた朝廷の故実を弁(わきま)え、冠帯の威儀を刷(つくろ)わんや。近年士卒の競望により、多く相伝の庄園を収公す。理の推すところ、縡(こと)善政にあらず。しかれば累家(るいけ)の私領においては、すべからくその家に返され、公務の忠否に随い、追つて黜陟(ちゅつちょく)あるべきなり。今度陪従(べいじゅう)の輩ならびに向後朝要の仁に至りては、尤も計略の分限を定め、拝趨の羽翼を計い行わるべきか。 |
公卿・僧侶等の朝恩を定める事。 朝廷に参上し、政事に参画し、朝な夕な天皇に拝謁し、毎年毎年、皇恩を頂戴している者は、たとえその身を尽くそうとも、何とかしてその恩に報いるべきではないか。 今、国家は謀反が発生し、天皇が隠岐へ流罪となったり、皇居を吉野に構えるなど、天皇の御心は安らかではない。このような時こそ臣下として忠義を尽くすべきである。 それにもかかわらず、忠を知り、義を守る者は一体何人いるだろうか。平穏の時には大禄を欲深くむさぼり、艱難の時には逆徒に屈伏する。これを乱臣賊子と言わずに何と言う。この罪は死んで償っても余りある。このような輩に、なぜ新恩を与えられるのか。護持僧もまた多くがこの類である。 国境の地方の武士や雑兵においては、まだ王化されていないとはいえ、君臣の礼を正し、忠をいだき、節の為に死ぬ者は数え切れないほどいる。それなのに、いまだに恵沢がすべてに亘らないのは政道の失敗である。 それならば、多くの功績のない者の新恩の跡をもって武士や雑兵に分け与えるべきではないか。 一般に元弘の変(元弘元年=1331年)以来、他を差し置いて功績のある武士に、謀反人から没収した地頭職を配分し、国領及び・荘園を朝廷に仕える僧侶俗人に対する恩賞にあてがわれるならば、朝礼は廃れず、勲功は空しくならないのではないか。 そもそも代々朝廷に仕えていた家の者の不忠は憎むべきことではあるが、その者を解官してしまえば、誰か他の者が故実をわきまえ、衣冠束帯を調えて朝議に参列する義務を果たすであろう。 近年、武士が競望するため、相伝の多くの荘園が没収されている。このような事は、善政ではないと推察する。 それならば、長くその家に伝領された私領については、速やかにその家に返却し、公務に対する忠義の念が厚いかどうかに従って、官位の昇降を決定するべきである。 このたび天皇の吉野行に供奉した公家並びに今後、朝廷の要となる人物は、所領の大小を定めて、朝廷に仕えるための物的なよりどころを与えるべきではないか。 |
| 乱臣賊子:国を乱す臣下と親を害する子 |
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