北畠顕家奏状


第三条

原文 読み下し文 訳文
可被重官爵登用事

右有高効者、以不次之賞和漢之通例也、至于無才者雖有効、多与田園不与名器、何況無徳行無勲功而猥黷高官高位哉、維月之位者 朝端之所重、青雲之交者象外之所撰也、非其仁而僥倖之者近年継踵、加之或起家之族或武勇之士、軽先祖経歴之名望文官要劇之職、各存登用之志恣関不次之恩、向後之弊何為得休、凡名器者猥不仮人、名器之濫者僭上之階也、然乃任官登用須撰才地、雖有其功不足其器者、厚加功禄可与田園、至士卒及起家奉公之輩者、且逐烈祖昇進之跡、且浴随分優異之恩者、何恨之有焉、
官爵の登用を重んぜらるべき事

右、高き功あれば、不次(ふじ)の賞を以てするは、和漢の通例なり。その才なきに至りては、功ありといえども、多く田園を与えて名器を与えず。なんぞ況んや徳行なく勲功なくして、猥(みだ)りに高官高位を黷(けが)さんや。維月の位は朝端(ちょうたん)の重んずるところ、青雲の交(まじわり)は象外(しょうがい)の撰ぶところなり。その仁にあらずして僥倖の者、近年踵を継ぐ。しかのみならず或いは起家の族、或いは武勇の士、先祖経歴の名を軽んじ、文官要劇の職を望む。各 登用の志を存し、恣(ほしいまま)に不次の恩に関(あずか)る。向後の弊いかんぞ休むことを得ん。およそ名器は猥(みだ)りに人に仮さず、名器の濫(みだ)りなるは僭上の階(きざはし)なり。しかればすなわち、任官登用はすべからく才地を撰ぶべし。その功ありといえどもその器に足らざれば、厚く功禄を加え田園を与うべし。士卒および起家奉公の輩に至りては、且は烈祖昇進の跡を逐い、且は随分優異の恩に浴さば、なんの恨かこれあらん。
官爵の登用及び恩賞を慎重にすること。

高い功績があれば、順序を超えた昇進を行うのは、わが国及び中国での通例である。
しかし、功績があったとしても才徳の無い者に対しては、所領を与えるべきであって、官爵を与えてはならない。ましてや、徳行も勲功も無い者が、どうして順序を無視して高位高官につくのか。

公卿の位は朝廷が重んじているものであり、朝官同士の交際は仙宮が選ぶものである。
近年、その人の仁によるものではなく、たまたま運が良かっただけの者が高位高官についている。それだけでなく、成り上がり者や武士が、先祖や経歴を軽んじて文官の要職を望んでいる。
各自が登用を希望し、ほしいままに順序を無視した恩恵にあずかっている。今後の悪例を残してしまい、どうして落ち着いていられるのだろうか。

そもそも官位というものは、むやみに人に与えるものではない。官位の秩序の乱れは、成り上がり者の驕りをまねく基である。任官登用は才能と家柄、つまり、その者の器量をもって選ぶべきである。

例え功績があったとしても、その官位に相応しくない者であれば、多くの褒美と土地を与えるべきである。武士や成り上がり者については、家々に決められている官位昇進の例に習いながら、一方では他より随分多くの褒美を与えることで、何の不満があるだろうか。

平成15年(2003)3.24up
平成31年(2019)1.31原文追加
第一条 第二条 第三条 第四条
第五条 第六条 第七条 結びの言葉

徒然なる独り言 TOPへ