上高地、島々谷川など、梓川水系への砂防、治山工事見なおしに関する要望書

    2005年 9月16日
松本市長 菅谷 昭  様

 精力的に松本市政改革に邁進する貴殿に敬意を表し、より一層の市政改革に取り組まれることを切に願っております。
さて今回の要望書の趣旨は、以前から多くの専門家や市民によってその問題が提起されてきました上高地や島々谷川、梓川などに建設されている砂防ダム、治山ダム、河川工事などが景観や自然環境に及ぼす諸問題のことです。

ご存知のように上高地はもとより、島々谷川、梓川などは県外の人々から注視されている国民的な景勝地です。しかしながらここ数十年の間に土木構造物が多く入り、その景観や自然環境は危機的な状況になりつつあります。梓川水系への砂防ダム、治山ダムなどの建設は、国土交通省、林野庁の直轄で行われており、防災という目的で工事が先行してきました。

しかし近年、ありのまま(人工的でない)の自然景観や自然環境に接したいという国民の思いは社会的、時代的背景からも強くなってきています。そうした中で国民の貴重な財産である上記の地域を、市民的議論のないままに工事が継続されようとしています。
本来ならば国民的財産ともいえるこれらの場所の工事は、市民、地元住民、専門家、環境保護団体、行政などを含めた開かれた中での議論がなされ、工事の有無を判断すべきものです。

 今までこれらの地域は、安曇村、奈川村の地籍であり村外の人間が意見提言をしにくい環境でした。今回の合併で松本市の地籍となったことで、市民の声を反映するための議論の環境を整えることが重要だと判断しております。

 ただし誤解されては困りますが、私たちは防災をないがしろにすべきなどとは言っているわけではありません。生命や住民の財産を守ることは最優先されるべきです。そのことをふまえつつ、日本有数の観光資源である美しい山岳環境、渓谷環境を保全するためには、今までのやり方を見なおし、防災に関するハード面の限界をしっかりと認識することが重要です。同時に、限りある財政の中で際限のない土木工事に頼らざるを得ないと言う、これまでの公共事業のあり方を見なおすべきではないでしょうか?

 しっかりとした調査に基づいた討議が今もっとも必要になっております。


下記に上高地、島々谷川などに関する問題を簡単に記します。

上高地

 眼前に迫る3千メートル級の穂高連峰などと、梓川河畔に生える各種の広葉樹林と蛇行する川面の広大な風景が織りなす景観が形成されています。水中にはイワナ(実はカワマス、ブラウンマスに置き換わり、広範囲でイワナは絶滅)がのどかに泳ぐ恵まれた環境です。ここの自然と人との関わりは数百年来のものです。そしてこの地形は、山からの土砂の流出、梓川の働きや噴火による上高地への土砂の堆積、川の氾濫などの繰り返しによって形づくられてきています。
 この様な地形と川の働きのある環境の中で、ケショウヤナギやハルニレなどの上高地らしい樹木が生育し、この環境に適合した中に昆虫類や多くの鳥類、哺乳類などが生息しています。この上高地らしさの重要な部分である渓畔林は、川が氾濫してこそ成り立つ環境であります。現在進行中の護岸の建設、砂防ダム、治山ダムなどの人工構造物の建設は、上高地らしい植物、昆虫類、魚類などの生息環境を壊し、単一な水路化で多様性を奪うという自然破壊につながり、その再生産すら止めてしまうことになりかねません。

島々谷川

 はじめて日本アルプスを世界に紹介したウエストンは、上高地に入るのに経由した島々谷川の美しさを絶賛しています。現在その谷に高さ2〜30メートルの砂防ダムが7基造られており、新たに北沢に第6号砂防ダムの建設が予定されています。
 昭和の初めころから砂防ダムが造られ始め、徐々に増設されてきたことでイワナ、カジカ、カワネズミ、ヤマセミ、猛禽類などの渓流生物や渓流景観は大きなダメージを受けています。なお工事用道路の増設によって重機やトラックなどが持ち込む外来植物も繁茂しています。
 また現在国土交通省松本砂防事務所が設けた島々谷川環境調査委員会は、6号砂防ダム建設を前提としてダム上下数百メートルの環境議論しかできていないことと、ダム建設の是非を論じる事もできないという足かせをはめられています。本来ならば下流から上流にかけて造られてきた砂防ダムによる環境変化(破壊)の変遷が十分に考慮されなければならないところです。
 防災と環境の両立を謳うならば、環境保護団体や有識者等を含め多角的に検討し、ダム建設以外の代替案を含めたあらゆる方法を選択肢として議論を進めていくことが筋と考えます。


以上のことから下記の要望をいたします。

1、上高地、島々谷川などへの砂防、治山、河川などの工事に関して市民、環境保護団体、専門家、行政などを含めてそのあり方を協議する委員会や公開討論会、市民意見を集約するシステムづくりなどを協議する場を設定してください。


2、渓流や河川の工事(治山、砂防、河川)に関しては、松本市環境保全課が事前に工事計画を把握し、環境に関する協議を専門家、環境保護団体などと密に連絡を取りながら関わっていくシステムをつくってください。

各 団 体 連 名

水と緑の会
長野県勤労者山岳連盟 自然保護委員長
安曇野環境ふぉーらむ八面大王
自然観察の会 ひこばえ
筑摩野の風景をはぐくむ会
長野県自然保護連盟
森倶楽部21
あづみの道草あかとんぼの会
渓流保護ネットワーク「砂防ダムを考える」
連絡先 田口康夫
長野県松本市

新聞記事
  読売新聞   2005/09/17
  中日新聞   2005/09/17
  市民タイムス 2005/09/17