浅間山噴火と八ッ場ダム見学会の簡単報告

渓流保護ネットワーク・砂防ダムを考える 田口康夫

2008年10月4、5日に伊那谷自然友の会主催の見学会に参加した。私は長野県にいながら東信を殆ど知らず浅間山にも行ったことがなかったためこの機会に地質のことを知り、また浅間山噴火によりできた地質層の上に八ッ場ダム計画地があることで、ダムの問題も同時に見たいと思い参加した。

浅間山は、おおよそ10万年前に黒斑(くろふ)火山が誕生し、2万1千年前に大爆発が起こり頂上の東半分が崩れ落ちて終息した(現在の火口西側外輪山として今も残っている)。その後仏岩火山に移行しこれに重なるようにして現在に至っているとのこと。この過程で千曲川、湯川、吾妻川、軽井沢などに堆積物が積もり谷が埋まった。最近5千年間くらいでも10回ほどの大規模活動が知られている。
浅間山ができる以前2万1千年ほど前に黒斑山噴火によって火口壁が飛ばされた時に岩なだれによって流れてきた塊が佐久市岩村田近辺に塚のような形でいたるところに残っている(写真1の小山は、火口から20kmほど離れている)。


   写真1 平塚の流山

  
   写真2 流れ山の安山岩の大岩           写真3 天明3年(1783年)噴火の軽石層

 写真2は流れ山上にある大岩(溶岩、噴石などが混じっている)であるが、ここまで来たのか噴火のエネルギーの大きさに驚く。写真3は軽井沢地震観測所裏の天明噴火(1783年)によって堆積した軽石の堆積物で、下の黒い層は腐葉土層、この下にも天明3年以前の噴火の堆積物がある。浅間山は、小規模噴火は絶えず起こっているが、200年に1回くらいは中規模の噴火があり、5、6百年に1回くらいに大爆発しているようで、この周期で続いているとのことだった。

  
  写真4 鎌原(かんばら)の観音堂           写真5 嬬恋付近の火山灰層

 写真4は、天明3年噴火で50段あまりの階段がここまで埋まり、火山礫の堆積厚さは6mであったとのこと。この階段の中腹に若い娘が母親らしきを背負ったまま埋もれていたことはあまりにも有名な話である。
写真5は、火山灰の積もった層が吾妻川に浸食されてできた壁であるが、吾妻川の流れるところは浅間山の噴火によって出された溶岩、灰、礫などの堆積地であり非常にもろい地質でできている。この吾妻川に八ッ場ダムが造られようとしている。
八ッ場ダムは1952年に計画されたが、56年を経てもまだ完成しないほど地質や建設目的に問題の多い計画で、他の多くのダム問題と同様に過剰利水、過大な治水目標、立地場所の不適正、美景観の消滅、住民生活の破壊などなどどれ一つ見てもまとものことがない現状である。

  
  写真6 ダム予定地直上の小滝             写真7 ダムに沈む美景

  
     写真8 小滝の真上に造られた壁      写真9 中央の州の辺がダム設置地

 写真6はダム予定地直上の小滝であるが、実はこの上にも滝が続いていたという。そこへ写真8にあるようなダムのようなコンクリート壁を造りその上流側を埋め立て代替地(写真10)にする予定だという。


   写真10 壁の上流側代替地

 代替地はこの他にも幾つかあるが、急峻な斜面を削ったり盛土をしたりするが、岩屑なだれの堆積地や、崖錐上に造られるため、ダムに水が溜まれば地すべりが起こることは目に見えている。ちなみに移転する予定の住宅は未だに2棟であり完成もしていない。

写真7は、非常に切り立った渓谷だが、吾妻川はこのような美しい深い渓谷が長く続いている。これは火山地質がやわらかく川による浸食が大きいことを示している。

写真9がダム軸あたりだという。なお川の水の色が濁っている訳は、この上流に白根山や草津温泉などがあり、火山性の強酸性水(Ph1〜2)が流れ込んでいるからである。そのため上流に中和用の品木ダムを造りPhを5くらいにしているとのこと。強酸性のままだとコンクリートや鉄筋に支障きたすため品木ダムと八ッ場ダムはセットで考えなければならなくなっている。しかし品木ダムの堆砂が想定よりも早く進み問題が大きいようである。


  写真11 長野原第1小学校

 写真11は代替地の小学校であるが、この地が地すべり地であるため学校の裏山斜面はアンカーで引っ張っているとのこと(今は草で覆われ見えない)。また校舎の裏側には沢があり砂防ダムが4、5基入っているという。危険と隣り合わせの条件の中に設置させる国交省の気が知れない行為である。なお児童数は減って今は16名しかいないという。今後は老人施設に切り替える案も出ているとか、弱者にしわ寄せする政策には変わりはない。


   写真12 金島の大岩 

 写真12は浅間山火口から40Km以上はなれている金島の吾妻川の元河川敷内であるが、噴火による堰止湖の決壊がこのような大きい岩をも運んでしまうというすさまじさをしめしている。こんなところにダムを造ること自体無謀としか言いようがない。
 吾妻渓谷は深いため代替道路を結ぶ橋脚の高さは並みではない。1本の柱だけで6億円という。未完成の柱が突き出ている光景は異様に見えるが、地すべり対策、代替地対策、代替道路・鉄道など各種インフラもほとんど完成していない。今までに4回の見直しにより総事業費は5,846億円に膨らみ、起債の利息を含めると国民の負担額は8,800億円にもなり日本一高いダムとなってしまうという。まだ本体工事に着工してないのだが、今中止した方がまだ損失を膨らめないことになる。しかし案内者の渡辺さんは付け加えた「50年間もダム建設事業に翻弄され地元の生活環境はずたずた、今ここで全てが終わってしまえば地元の生活は成りたなくなる。もしダム中止が決まったら、地域の人々が主体となってこの地域の再生のための指針を作り、これに沿って行政が必要な公共投資を行ない様々な補助ができるように努力すべきである。これはダム事業を推進してきた行政の責任でもある。ダム事業を止めるということは、公共投資の節約という視点からからだけでなく、地域再生の視点をも合わせて考える必要がないでしょうか。」ということだった。本当にそのとおりである。私たちは幸せな生活を送るために国に税金を納めているのであり、税の使い方を改めて考えさせられる見学会であった。これだけの金額を福祉、医療、教育、年金などなどに回せば、我々の生活はもっと豊かになっているはず。今後は行政の選択責任やそれを選んでいる国民の資質が問われることになる。次回総選挙しっかり考えてもらいたい。

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