釣り師が聞いた渓流の魚たちの嘆き
安曇村 福島立實
1.変わりつつある渓流
私は釣りを生活の一助としている者です。安曇村に生まれ子供の頃から釣りを楽しみ、山を楽しみ、私の人生にとって自然が与えてくれたものは計り知れないものがあります。流れる川の水を飲み、川は今でも勿論生活の一部であります。その生活の一部である川が近年変わりつつあります。
まず水の色が変わった。川藻が川底の石に付かなくなった。それにともない当然川虫も魚もいなくなる。川が変わる要因として考えられるのは二つあると思う。一つは人間が与える影響、もう一つは自然が与える影響。
2.渓流の魚たちに影響を与える砂防ダム
人間が与える影響のなかで最も大であるのが砂防ダムであろう。砂防ダムの必要性は「地域住民の生命、財産を守ること」、これにつきると言いたいが、「地域業者の為に一役買っている」ことも有るようだ。これらのことを考えると満更反対もできないし、仕方のないことであろうが、砂防ダムの効果と環境への影響のバランスを考慮し、もう少し方法を考えて貰えなかっただろうかと思う。特に「コンクリート害」についてである。最近魚道と景観を重視する声をよく耳にするが、コンクリート害については耳にしたことがない。私ども漁業組合員で建設事務所の方にご足労願い前川の砂防ダムの中止を求めたが、やはり答えは魚道と景観だけでありコンクリート害には触れていただけなかった。コンクリート害によって川の色が変わる。川の色は石の色でもあるし苔の色でもある。釣り師の間に「良い渓相」という言葉があるが「良い渓相」とは景色のことではなく石にしっかり苔がついた川の色の事を言う。コンクリート害によって川苔がつかなくなり水生昆虫がいなくなり、その結果、魚もいなくなる。砂防事業は与えられた予算の消化で行うのではなく、また、ただ土砂を止めるだけでもなく、生態系・渓相にも配慮し、それらの為にどこに何が必要か、何をしたら良いのか考えて頂きたいと思う。それには、お役所からの一方的なものでなく地域住民との「協働」的なもので進めていただきたいと思う。
3.融雪剤の影響
人間が与える影響の第2は融雪剤であろうと思う。専門的な事は分からないが科学的につくられたものだけに動植物に与える影響は皆無ではないと思う。融雪剤に頼るしかない今、難しい問題である。
4.生活用水の流入
その3として生活用水の流入がある。私自身保健所の指導により、一滴の生活用水も入れていないつもりだが兎に角川が汚い。特に乗鞍に於いては小大野川の汚れは恥ずかしい限りである。
5.自然が魚に与える影響
自然も何らかの影響を与えている。自然水害、天敵、寄生虫・・・。自然水害であればいいが林道工事と伐採による水害はやはり人間によるものである。そこには対症療法である砂防ダムが存在し、全くの悪循環である。
天敵、私も渓流に生息する魚達の天敵の一員であるが、その他にカワガラス、カワネズミなどがいる。砂防ダムにより塞き止められた場所に産卵期を迎えた岩魚が行き場所を失い、やむなく産卵したがそれをその界隈にいるカワガラスが一日にして何万、何十万粒という卵を食い尽くしたのを見たことがある。これも真の原因は岩魚の産卵場所を奪った人間によるものと考えられる。
寄生虫、現在上高地の魚が寄生虫に侵されている。専門家が調べているようだが、私が様々なことを考えるに間違いなく人によって人の足によって運ばれたものである。いずれにしても、人間が関わっている。人間ははおぞましいものです。
6.日本人すべての責任
悪いことはお役人のせいにする傾向にありますが、むしろその他の日本人全ての責任であるとも考えています。役人以外の人々にも渓流環境の破壊に責任があり、その保全を考えて行く必要があると思います。最後に工事が止まったままの前川砂防ダム、実際には止まったままと言うだけで、本当に中止したのか、予算の関係で一時的に中止となっているのか分かりませんが、我々の意見を取り入れてくれた結果と信じたい。
種々申し上げましたが、一番被害を被っているのは人間ではなく魚達に他ならない。私には魚達の大きな叫びが聞こえてくる。