島々谷川第6号砂防ダム建設取り止めのための代替案

渓流保護ネットワーク「砂防ダムを考える」

 現在、国土交通省松本砂防事務所は当初予定の高さ42mのクローズダム案にかえ、高さ21mのオープン式ダムの検討に入っている。既にこのための模型実験を終え、次の段階の環境調査委員会開催(3回の中2回は終了)に至っている。私たちは今までに5回の意見書、要望書などの提出(99.1.28、99.6.10、00.2.7、02.11.14、02.11.20)と何回かの話し合いの場をも持ってきたが、中止のための進展は未だ無い。6号砂防ダム建設は明らかに環境に影響を及ぼすが、これ以外の代替えのための議論はされていない。以下に6号ダム建設にかわる代替案を示す。

1. 1号砂防ダム(高さ15m)の透過型化。
 この場所は地形的な要因もあり、ダムによる河床上昇が固定化したことで、1999年の大雨時に付け替え道路を伝わって土石流が下流人家にあふれ出る寸前にまでいたった。従って、まずはダム改修により現河床を下げることで安全を確保し、砂防ダムの土砂調節量を高める必要がある。

2. 3号砂防ダム(高さ31m)の浚渫をする。可能ならば透過型に改修する(アーチ式ダムだが、堤体肉付けによる透過型化が可能ならばおこなう)。
 ダムの浚渫等をして常に空状態にして土砂調節量を十分確保し、小嵩沢と本流からの土砂流入に備える。松本砂防事務所は浚渫の必要性を考えていないが、過去に浚渫の実績がある。昭和20年の災害時は、小嵩沢からの流出土砂が本流をせき止め、決壊した鉄砲水で被害が大きくなった。なお当時の山が森林伐採により裸状態にあったことも考慮すべきである。

3. 4号(高さ16m)、5号ダム(高さ14m)の透過型への改修
 これらのダムの透過型化への改修によって土砂調節量の増大が見込めるので、環境に大きな影響を及ぼす6号ダム建設を考える前に、まずは既存のダムの改修(嵩上げも含め)を優先すべきである。環境を壊すダムの新設は選択肢の中でも最下位にすべきである。なお、これらのダム建設の目的に山脚固定が挙げられているが、固定しなくてはならない場所はない。河床が上がった分だけ新たに山脚や山腹の崩壊リスクを高めていることの方が問題である。

4. 渓流内での自然土砂調節場所に排土(残土)を置くべきでなく撤去が必要
 5号砂防ダム上、二俣下、3号砂防ダム上流等、工事によって出された残土を河川内に放置(捨てる)することは土砂生産を加速し、川の持つ土砂調節機能を阻害することになり、砂防論理から見てもおかしい。

5. 北沢源流部、冷沢への林道の開設(約3km)が土砂生産を加速させている。積極的に植林などをして安定化を図ることが必要。また中流域の森林は、林が込み合い治山力を落としているので間伐などの森林整備も必要。

6. 土石流が出ることを前提とした防災対策の実施。
 1999年大雨での土砂流出の特徴は、3号ダムより下流に大きな土砂流出場所が生じ被害を集中させている(道路の開設が主な原因)。つまり必ずしもダムの上流で土砂生産が起こるとは限らない。このことを考慮すれば土石流がでることを前提としたソフト対策と土地利用対策を考えることが望ましい。またこのことは土砂災害防止法の理念にもかなう。なお長野県は「信州・長野県における土砂災害対策のあり方」という通達を出し以前とは考え方を変えてきている。

7. 以前より積極的な土砂供給システムが必要。
 最下流部では上流からの土砂供給不足によって河床洗堀が進み堤防根固め部分が露出しはじめている。放置すれば堤防決壊にも繋がる。(梓川本流の土砂移動も含めた対応も必要)

 以上のように既存のダムの浚渫、透過型化などを進めれば、6号砂防ダムの土砂調節量を上回ることが明らかである。また森林の整備安定化を図れば土砂は出にくくなる。従って、この谷きっての美しい景勝景観や環境に大きなダメージを与えるダム新設は、他の選択肢に関する議論を無視して進めるだけの根拠に乏しい。また環境調査委員会は6号砂防ダム建設が周辺に与える環境への影響だけで判断をするのではなく、今までに造られてきた砂防ダムによる渓流環境への影響と経緯状況を把握し、下流部から源流部までの環境変化の変遷を総合的に判断する視点での位置づけが必要であると思う。

渓流保護ネットワーク「砂防ダムを考える」 代表 田口康夫