中房渓谷の景観と生態系を守るための要望書
長野県知事 吉村午良 殿
豊科建設事務所所長 松岡直樹 殿
 
 中房川は北アルプス燕岳などを源流として安曇野へ流れ下る山岳渓流部を持つ川です。この渓谷は万年の年月を経て造られた長野県有数の美しさを誇るものです。流れに洗われる渓流内の岩肌の白さと岩壁の輝き、そしてそのスケールの大きさは他の渓谷の追随を許さない美しさを誇っています。
 この渓流は多くの生物を育んできました。山岳部にはイワナ、里部にはカジカなどの魚類をはじめ、シラヒゲソウ、サワユリなどの渓流特有の植物、クマタカなどの猛禽類、カワガラス、カワセミなどの野鳥、そして多くの種類の水生昆虫とサンショウウオ、これらのほとんどが渓流環境の恵みによって生きています。
 しかし、県と豊科建設事務所は、土砂災害防止という理由で長年にわたり20基あまりの砂防ダムを造り続けた結果、村民、県民、国民の共有財産ともいうべき貴重な渓流景観と渓流生態系に大きなダメージを与えてしまいました。砂防ダム建設により、渓流の景観とそこに生息する多くの動植物にどのような影響があるのか調査されないままに建設計画が立られた結果と思われます。
 
 土砂災害防止は大切ですが、今後は渓流環境への配慮と、土砂を止めることによる下流域への影響も含めた総合的な視点で砂防ダム建設の計画を見直す必要があります。防災面から見た流出土砂のコントロールに関しては、建設省河川審議会とその小委員会で検討された「流砂系の総合的土砂管理に向けて」(1998年7月)の報告に、源流部から海までを視野に入れた土砂管理の必要性と土砂の止めすぎによる下流・海岸域での問題点が指摘されています。また、生態系、景観などの環境破壊の問題点も指摘され、今後土砂流出移動調査研究や環境調査の必要性をうたっています。このことは、今まで各河川で造られてきた砂防ダムの大きさと数を決める基本的な考え方を改め、環境と下流域への影響を総合的に考えていかなければならない事を示しています。
 
 また、過去の災害例からも分かるように、人間による土砂管理には限界があります。全国に18万もある土砂災害危険ヶ所(土石流約8万)を土砂災害防止工事により安全にしてゆくには莫大な時間と費用がかかるため、土砂の出ることを前提とした土石流危険地域の設定と土地利用制限も含めた防災体制づくりの必要性が、河川審議会の「総合的な土砂災害対策に関する検討」(1999年11月)報告に書かれています。砂防ダムを造るというハード面にだけに重点を置くと、財政面での逼迫と環境破壊をより深刻化させるとともに、近年多発している道路やトンネルのコンクリートの寿命による崩落は、砂防ダムも例外ではなく、その老朽化は下流部に土石流災害を与える原因となる危険性がある事を指摘します。
 
 以上に記したことを踏まえ、次に示す要望をいたします。
 
1.上流、渓流核心部へのダム新設は一切行わないでください。特に黒川沢出合より曲沢出合の間はこの谷でもっとも景観が良い場所であり、既存ダムの撤去または、既存ダムのスリット(オープン)化への改修によりダム堆砂によって失われた渓流床を復元してください。
 (1)中房砂防ダム(高さ28.5メートル)を撤去し、その100メートル下流の
既存砂防ダム(高さ15メートル)をスリット(オープン)型ダムに改修してください。
 (2)中房砂防ダム上流2キロメートルにある既存砂防ダム(高さ14メートル)を
撤去またはスリット(オープン)型に改修してください。
 
2.中房渓谷全体の景観および生態系調査を実施し、その結果を公表してください。
 豊科建設事務所と環境団体や村民との間に「渓流環境保護連絡会」のシステムを作り、環境と防災の調和を目指してください。
 
3.ダムの老朽化、コンクリートの寿命などで破壊する可能性が生じた場合に、下流部へ災害を与える危険があるハイダムは撤去してください。
 
4.土石流危険個所を設定明記し、これを積極的に公表してください。そして、危険個所での土地利用制限、移転(費用援助、建て替え時での移転など)を加えた防災対策を進めてください。
 
5.土石流や水害などの防災上問題のでやすい開発や森林の部分完全伐採をやめ、択伐、間伐、植林などの森林育成に重点を置いてください。
 
6.中房渓谷核心部は長野県有数の渓流美を誇ります。この部分には昔の歩道が部分的に残っています。この歩道を復元し、多くの人々に、中房渓谷のすばらしさを実感してもらいたいと思います。(村民、県民、国民の財産として位置づけて対応してください)
 
7.砂防ダム建設を行う場合、計画段階より前の構想段階のうちに、環境団体、村民などに連絡してください。
 以上ですが、過去の砂防行政には渓流環境を重視する考え方がありませんでした。私たちは防災と環境の調和を求めて、防災面、財政面、環境面において現在の日本での最も適した対策を、科学的情報に基づいて建設的に話し合う精神を持って進めていくことを心から望んでいます。
 
安曇野環境ふぉーらむ・八面大王    代表 小柴善一郎
あずみの道草あかとんぼの会    代表 及川稜乙
烏川渓谷の自然を考える会       代表 藤沢雄一郎
国営アルプスあづみの公園・友の会   代表 町田 哲
砂防ダムいらない? 渓流保護ネットワーク  代表 田口康夫 松本市本庄