渓流保護ネットワーク・砂防ダムを考える 田口康夫
今回の視察(2008年7月12日)は、この沢が長野県知事名によって土砂災害特別警戒地域の指定解除(2008.6.26、全国初)をされたため、なぜこのようなことが行われたかを知るため現場を見ることからはじめた。沢の出口一帯は地すべりと土石流の両方が指定地域になっていた。
「土砂災害特別警戒地域」とは土砂災害警戒区域(土砂災害の恐れのある区域)のうち、建築物に損壊が生じ、住民に著しい危害が生じる恐れのある地域を指す。(国の土砂災害防止法に基づいて都道府県知事が地域防災計画に沿って指定する)
写真01
写真01:建物の左奥に伸びる沢でスキー場の下りコースにもなっている
写真02 写真04
写真30
写真:02、04、30:人家や神社は峰方沢の出口のど真ん中にある。450年前からある神社で1000年杉もあるほどで、災害の記録はないようだ。
写真05:峰方沢の延長にある人家
写真06 写真14
写真06、14:峰方砂防ダム(高さ10m 幅92m 貯砂量12,000㎥)、なぜか上流側に布団カゴ
せいの防御壁のような2重構造になっている。
写真23
写真23:峰方沢上部、過去に地すべりが生じなだらかなコースとなっている。沢の中はいたるところで水が出ており地面は絶えず飽和状態ではないかと思われるほど湿っていた。樹種はスギ、ブナ、ミズナラ、カツラなど水に親近性があるものが多かった。
写真31 写真35
写真37
写真31、35、37:峰方沢左岸の小尾根を介した本村沢の砂防ダムとよく茂った樹林。平成2年ににできたが、18年で堆砂率ほぼ0%。
今回の見学では、古い神社や1000年杉に見られるように、かなり長い間土砂災害が起きていない事実が見られた。また、すぐ隣の本村沢砂防ダム(高さ14m)も18年過ぎても堆砂がほとんどないことなどから土砂の出にくい沢のように見えた。
しかし沢の中はいたるところ水が染み出ており、地面は飽和状態になっているように見える。100年に一回の大雨などがあれば土石流というよりは洪水に近い災害が起こるのではと思えるところだった。
本村沢と峰方沢から流れ出る土石流の範囲は重なり合い、そのダブったところにも人家が建っているので危険度はなお多いはずである。
今回の解除の理由として、上流から出てくる土砂量を12,400㎥とし、空っぽのダムの貯砂量12,000㎥と調節量2,700㎥の合計を14,700㎥(効果量)として安全が確保できるということだった。しかし、このダムの堆砂が進んできた場合は効果量が大幅に減ってくることになる。なお出てくる土砂量が予測を超えた場合にはどうするのであろうか。本来は危険な沢スジから離れたところの土地利用を指導していくことが行政の役割ではないだろうか。土砂災害防止法も砂防整備率が20%たらずの現実を考慮して指定という網を掛け、土地利用の適正な仕方を目指しているのではないか。
私たちから見れば、最初から費用のかさむダムのようなものに頼らず、安全な土地利用を推し進めていった方がはるかに経済的で安全な防災対策につながるのではと思うのだが、皆さんはどのように考えますか?
課題としては、なぜこの地域が土砂災害特別警戒地域になったのかを明らかにし、その検証を進めていくことが必要だと思う。
知事にたいして近日中に意見書を出す予定です。