川辺川(熊本)の砂防見学簡単報告 その2 貯水ダム関連

渓流保護ネットワーク・砂防ダムを考える 田口康夫

・川辺川では今年(2008年)6月12日に川辺川第1発電所取水ダムが壊れた。昭和12年に建設されたもので72年ほど経っている。大きな洪水でもなかったのだが、コンクリートの老朽化は回避できないことを示していた。水衝部でなく蛇行の内側が壊れたことがなぞであるが、壊れたゲートは排砂・排水などに使われ頻度が高かったようだ。


写真83 板木ダムの崩壊


写真78

写真83、78右岸端のゲートは壊れたままであり、壊れた2基のゲートは撤去され、ボーリング調査中で、発電は中止されていた。(堤長71.5m 高さ11.5m、ゲート幅4.5m高さ3m、最大出力2500kw)


・年代が分からないが、チッソの川辺川第2発電所取水ダムも壊れ撤去されている。現在は袖部のみが残っている。


写真70 チッソ第2ダム撤去跡.

写真70:左岸の水の取り入れ口がそのまま残っていた。


写真71 ダム撤去による河床の戻り

写真71:ダム撤去が行われると、堆積していた土砂が流され元の河床が復元しつつある。河床が下がることにより護岸の崩れも目立っていた。


・ 今話題の荒瀬ダムは、蒲島新知事が撤去見送りなどとおかしなことを言い出しているが、前知事時代に住民合意までなされていたものであり、実に無責任な発言である。


写真01荒瀬ダム(昭和29年建造)


写真06 八代手前で

写真06:付近にはこんな看板もあり、小看板はいたるところに立てられ住民の心意気が伝わってくる。


・ 荒瀬ダム直ぐ下には堤高の低い堰があり、この扱いも問題になる。取水された水は球磨川河口の埋立地の田畑灌漑用水となっている。昔はハの字型堰で魚類などの移動は容易であったようだ。


写真08 平野堰

写真08:堰の落ち口付近には鮎が沢山集まっていた。


写真11 堰の説明板


・ 球磨川(川辺川の下流)は八代にて不知火海に流れ込む。上流にいくつものダムが建設され土砂の供給が減り、また埋め立てなどにより干潟などの縮小が顕著である。荒瀬ダム撤去が決まり堆砂土を下流に流したことで干潟の面積や質が向上したという。


写真15:球磨川左岸流の河口。


写真18 ダム放砂により拡大した干潟

写真18:ダムの堆砂土を流したことで干潟の質が向上したという。


写真21 アサリ採りに行くお婆さん


写真23 シャコ採り

写真21、23:アサリ採りに出かける話し好きな可愛いおばあさん。シャコ採りの2人組。貝やシャコが取れるようになり生きがいが増したといっていた。干潟には無数のカニ類、トビハゼが這っており、沢山の貝殻が打ち上げられている光景はその豊かさを象徴しているようだった。

 土砂は、流さなければいけないものは流すべきだと、ダム撤去の意味を実感することができた。

 よくダムの排砂をすればよいのではという意見があるが、排砂ゲート付きダム、穴あきダム、砂防・治山ダムの穴あき(透過型)などのダムは、水を溜めるという構造から生じる堆積土砂粒径のふるい分けが起こる。したがって、溜まった土砂を下流に流した場合粒径の選択が生じ、下流に移動する土砂は比較的粒径の細かいものだけが流れることとなる。流れる土砂の絶対量は増えるが、土砂供給の目的である河床高の維持、海岸線の維持については、流されやすい細かい土砂のため留まりにくく本来の目的を達成できない。また川の生態系の面から見ると、洪水時に粒径の細かい土砂や大きい土砂が混ざり合って流れることで河床表面が撹乱される。このような撹乱が多様な水生昆虫、魚類などの生息環境を生み出す。撹乱の無い場合は水生昆虫の極相状態を生み出し偏った種だけが生息するという事態も生じる。各種粒径の混ざり合った土砂が流れることで川はリセットされるのである。アユの餌となる珪藻なども洪水時の土砂による撹乱(表面の削り取り)によって新鮮なものに置き換わっていく。川の自然は色々な粒径の土砂が流れて初めて成り立っていくものである。

・昭和36年に日本で始めて撤去された轟ダム(大正13年築造 高さ7.1m 堤長87.9m)跡地を見てきた。場所は宮崎県都城市と高原町の中間で大淀川にある。このダムは立地場所が悪く、長い間ダムによる洪水を発生させ住民を苦しめてきた。当時は洪水原因をダムのせいだと認めず住民運動は大変だったようだ。現在は説明板、記念碑が保存されている。今はここからやく4km下流に轟ダム代替の大淀第一ダムがある。


写真03:説明板が幾つかある。


写真4 轟ダム堤体取り付け面


写真10 ダム左岸跡

写真04、10:ダム堤体取り付け面が残っている。


写真12 轟ダム撤去記念碑

写真12:撤去運動を忘れないようにと立派な碑が残っていた。時代が変わろうと正当な住民の主張や怒りは不滅であることを知ることができる。

 長野県に住んでいると川の上流しか目にすることができないが、海の近い県を回ると1回で川の連続性を全て見ることができ、なるほどと納得できる。こんなジャンルの旅行もまた楽しい。うまい酒、肴があったのでいっそう味がでた!・・・・次に続く