「 脱砂防ダム」宣言

2001年9月8日

 山に降った雨は大地にしみ込み、やがて川となって村や町を流れ、田畑を潤し、生き物を育み海に注ぐ。これらの過程で蒸発した水は、再び雨となって大地に戻り川をつくる。そして川は、同時に人間の生活に潤いを与え、文化を育ててきた。このダイナミックな水の循環が命の連鎖をつくっている。
 長年無批判に近い状態で続けられてきた砂防ダム、治山ダムなどの砂防工事は、この命の連鎖を遮断し、源頭部から河口海岸にいたる自然環境、生態系、景観そして財政に看過し得ぬ負荷を与えている。さらには砂防ダムを造る事だけが先行しすぎ、従来の自然な土砂流出をも阻害した結果、土砂供給不足が生じ中下流部、海岸などに洗堀や侵食など災害につながる多くの諸問題を発生させている。

 生態系においては、砂防ダムによる連続した流れの遮断と堆砂域拡大が、有機物分解者である水生生物などの多様な生息域を狭め単一化する。そのことによって森林と海をつなぐ食物連鎖の回廊が壊されるばかりでなく、ダムの沈殿、濾過の要素も加わって海の生態系や漁業にも悪影響を与えている。
 そして生物の多様性は、土石流などの攪乱から自然を再生復元させる鍵となる。しかし砂防ダムによる渓流環境破壊は、自然変動を遺伝子の中に取り込んで進化してきた渓流の生き物を、その変化の早さに対応できなくさせている。
 また砂防ダム建設は、自然が長い時をかけて作りあげてきた、日本特有な山水画を思わせる美しい渓流景観を市民的議論も無いまま一方的に消滅させている。
 一方これまでの砂防設備は、流出土砂をコントロールできることを前提として造られ続けてきた。しかし予想を超えた土石流が生じることで、土砂災害を無くすことが難しくなっている。
 このような状況の中で、本来なら土地利用の規制がかからなければならない危険地帯に、住宅や公共施設などが造られ、防災と言う目的で砂防工事が行われる。そして、さらに住宅や公共施設などが増設され災害への危険が増幅し、再び砂防工事が行われるという悪循環に陥っている。また工費の一部が受益者負担でなく、全てが税金で賄われると言う構造が砂防工事を安易に行う事につながり、同時に財政破綻の一因になっている。
 砂防工事だけで安全を確保しようという考えは、最近は少しずつ訂正されつつあるものの、まだまだ根強く、このまま進めれば莫大な費用と時間が半永久的にかかり、人々の砂防に対する過信は、被害を拡大することになる。

 このような問題を考えるとき、国民の選ぶ適正な公共事業の選択肢として、コンクリート砂防ダムに頼らない防災体制、及び森林の育成などの治山体制の確立こそが、これからの進むべき道である。従って総合的視野から見て無理のあるハード面対策に頼るよりは、土石流の出ることを前提としたソフト面対策の充実を急ぐ事が重要である。
当面は、可能な限り環境を壊す砂防ダムの新設を控え、既存ダムの浚渫かスリット(オープン)型に改修することで様子を見つつ、最終的には住民の合意に基づいて砂防ダム撤去の方向も考えていく必要がある。
 これからは私達の子孫に残す財産として渓流環境の価値を重視し、砂防ダム問題が全国的に市民レベルで広範なる議論が成される事を望む。  

第3回渓流保護シンポジウム実行委員会