2008.6.2
渓流保護ネットワーク・砂防ダムを考える 田口康夫
一向に進まなかった既存ダムのスリット化がようやく始まりつつあります。まだまだ私たちの提言「ダムの新設をやめ既存ダムのスリット化(オープン化)を進めるべきである」との内容にはほど遠いのだが、松川村乳川(大町市の南)においてまずは始まりつつあります。
ご存知かと思いますが、オープンダムの土砂調節量(流出してきた土砂を溜める量)はクローズダムのそれと比べて7倍前後の効果が期待できます。つまり1基の既存ダムをスリット化すると同じ大きさの7基前後のダムの機能を代替えすることにつながるわけです。また、地震災害に於いては、クローズ式ダムは土石流予防対策にならないばかりか、決壊した場合に被害を大きくする危険がありますが、オープン化することで、決壊時(コンクリートの寿命による崩壊も含め)の被害軽減につながります。
長野県の平均砂防整備率は20%です。100年近く続けてきてこのレベルです。この数字を40%にあげるには後100年と膨大な費用がかかります。また今まで建設してきたコンクリート制のダムは寿命をむかえ壊れていくことを考慮すると相変わらず整備率は20%前後となってしまいます。本当に防災のことを考えようとすればハード対策では効果がでにくいのが現実です。
写真7 白沢砂防スリット改修
写真10 白沢砂防上浚渫地
ダム上流側の土砂調節量が空いた分のスペース。スリット高さ3メートルで2万立方m弱の増加となる。工事を進めるとき土砂が流れ出すと危険なので前もって取り除いたとのこと。
写真8 白沢砂防上浚渫地
改修前は後方の林のようになっていた。
写真11 白沢砂防上浚渫地層
写真13 白沢砂防上浚渫地層
堆積していた土砂の層が黒い部分や白い部分がある。場合によっては粒径の非常に細かいヘドロ分の堆積もあり得るので工事を進める場合は水の汚染を防ぐような対応もしなくてはならない。
・写真15 白沢砂防スリット改修
幅2m高さ3mのスリットを入れる。スリット高さは去年1m、今年2mと2回に分けて進めた。
写真25 4号ダム旧道
このダムは改修ダムの300mくらい下流に新たにつくられてしまったものだが、その当時(4年前)既存の白沢ダムにスリットを開ければダムの新設は必要ないと反対したところだ。ただこの部分は安曇野国営公園建設地の一部で、川の中に渓流遊びゾーンをつくる計画がありその一環として防災上つくられた。予定ではすぐ下流側に3基の小ダムが計画されたが田中知事時代に中止となった。これらのどさくさの中で決行されてしまった。
今回の改修ではスリット高3mとなっているが、その根拠は全くなくただ改修後の様子を見て再度考えるとのことだった。評価できる点は、スリットを入れることが土砂調節量を高めることにつながるという目的で行われたことであり、今後私たちが意見要望を出していくことが改修を普及させる大切な要素になるということです。