2004年3月20日
長い間無批判でおこなわれてきた砂防行政の付けは、今多くの現象と問題を生じさせている。そして今まで批判の対象にならなかった治山ダムもまた同様な問題として扱われなくてはならない。
今までのシンポジウムで提起されてきた砂防ダムの弊害は、川の生態系や景観が壊されること、適正な土砂移動が阻害されることで上流部ではダムによる渓岸(山脚)崩壊が、中下流部では河床低下、海岸では渚の後退など、誰の目から見ても明らかな現象が生じている。
防災面では、砂防による土地利用の拡大が災害ポテンシャルを高めてしまった現実。長年おこなわれてきた砂防達成率(整備率)の全国平均が約22%、今までつくられたコンクリート制砂防設備の寿命を加味した場合、ハード面に頼よろうとすれば莫大な時間と費用がかかることは明らかであり、その限界を認めざるを得ない。私たちはこの現実の示す中で防災対策を考えなくてはならない。その意味で最近施行された「土砂災害防止法」の示す「危険地帯の土地利用制限と撤退」などの対処法は意義深いところがある。
これまでの多くの諸問題を総合的に捉えた場合、環境面、防災面、財政面を解決するという3要素を考慮しようとすれば、土石流や土砂のでることを前提にした、つまり谷筋は土石流の通り道であるというあたりまえの考えの基に対策を立てることが無理のない方法であろう。できうる限り砂防ダムを造らない、可能な限り砂防ダムを減らす、必要ならば既存ダムを環境型へと改修する、既存ダムのオープン化(土砂調節量の拡大、適正土砂流出量の推進)などのダムに頼らない選択肢を選んでいくことが上記の3要素を満たすことにつながっていくだろう。
今まで、私たちが反対し続けている安曇村島々谷川第6号砂防ダムの建設は、この3要素を考慮したものとは言えない。防災面から見たとしても既存の砂防ダムのオープン化により、ダム新設以上の土砂調節効果を得ることができるはず。谷きっての美しい景観を壊してまで進める利点は全くない。また今までつくられた8基の砂防ダムの流れの分断が、谷環境を大きく壊してきたことの事実を重視すべきである。国交省は早急にこの計画の見直しをすべきである。
そしてこの運動を進めるにあたり大切なことは、「川は森林と海をつなぐ生命の回廊」という位置づけである。源流部から海までを視野に入れた対策が全うできた場合、川は再びダイナミックな生態系の息吹を取り戻すことができるようになる。しいては私たち人間が暮らしやすい環境にを取り戻すことにつながっていくと確信する。
今必要なことは、それぞれの地域が声をあげていくことが大切であり、行動しただけの成果は確実にあがる状況になっている。住民の声が河川法を変えてきたように、砂防法もまた市民の声で変えようではありませんか!砂防ダム問題が全国的に市民レベルで広範なる議論がなされることを望む。
「第5回渓流保護シンポジウム・砂防ダムを考える」