渓流に造られるクローズ式砂防ダムと海への影響について

渓流保護ネットワーク 吉沢幸宣

 山と海を結ぶ河川の仕組みについては専門家ではありませんので詳しくは分かりませんが、山から海へ水や土砂が流れ、魚類などの生物が、海から山へと行き来している姿は、人間の体にたとえれば血管=動脈(上流から下流へ)と静脈(下流から上流)に似ています。
 この河川に造られるクローズ式の砂防ダムは、河川のもつ本来の機能に対して様々な影響を与えています。

1.血圧を下げる砂防ダム(渓流の勾配低下)

 アルプスの渓流環境には高さ30m,40m級の砂防ダムが造られていますが、これらの砂防ダムは河川の勾配を緩やかにするため、侵食作用が低下して下流部への土砂などの侵食・運搬能力を低下させています(図1)。この結果、海岸への土砂供給のバランスが崩れ、海岸侵食が起こり、日本各地の海岸にテトラポッドなどの消波ブロックが見られるようになりました。     


出平ダム、宇奈月ダムなどのゲート付排砂ダムからの排砂結果や(写真1)、姫川の土砂流出により海岸線が戻ったことからも、このことが分かります。(ただし、ダムに堆積したものはヘドロ化する問題が指摘されている 文献1)


写真1 黒部川河口2000.6.3 田口康夫

2.栄養失調をもたらす砂防ダム(ダムに堰き止められ、ヘドロ化する有機物)

渓畔林からの落葉は、本来は水生昆虫や微生物などにより分解され(写真2,3)、下流に流れて河川や海の生態系に必要な養分となるはずですが、これが、砂防ダムにより堰き止められダムに堆積してヘドロ化しています(写真4)。

  

写真2 2002/3/23 田口康夫             写真3 2002/3/23 田口康夫

写真4 2000/6/3田口 黒部川 入善港
(出平ダム、宇奈月ダム ゲート付排砂ダム)

 また、流量にもよりますが、堆砂したダムでは水は伏流して流れて行きますので、砂防ダムの影響により様々な養分が濾過されてしまうと思われます。ドイツ・ハンブルク大学の研究チームが四十二年間追跡調査した結果、ダム建設により森から海へ流れ込む栄養素・ケイ酸塩の濃度が三分の一近くに減り、黒海では水質悪化に拍車を掛ける悪玉プランクトンの発生がダム建設前の六倍以上に増えました。(図表4)。
 以下のデータは一般のダムの例ですが、ダムにたまった堆積土は、畑の土として利用できるほどです※(表−5ダムの堆積土 国土交通省三峰川総合開発工事事務所 より)。砂防ダムも同様の結果となることが予想されます。

中日新聞2002/09/25

  


3.既存ダムをオープン式にし、河川の調節機能を見直すことで健康状態に

 クローズ式砂防ダムの環境へのダメージを軽減するためにも、今後つくられる砂防ダムはオープン式の砂防ダム(写真5)が主流となるようですが、すでに貧血状態にある現状を改善するためにも既存ダムに対する対策(スリット化など)が必要と思われます。


写真5 オープン式砂防ダム(田口康夫)


写真6 オープン式砂防ダム(巽朝子)


文献

1 .田崎和江「黒部川出し平ダムおよび富山湾における堆積物の特性―懸濁粒子が魚類に与える影響の検討―」
                                                地質学雑誌 108 巻 第7 号435-452