島々谷川の砂防ダム

渓流保護ネットワーク 代表 田口康夫

 この谷は昔信州から上高地経由で岐阜に抜ける道であり、W・ウエストンも上高地入りに何回か使った美しい渓です。谷は二俣で南沢(徳本峠上高地方面)と北沢に分かれます。現在すでに8基の砂防ダムが完成していますが、いま北沢の5号砂防ダムの上流に6号砂防ダムが造られようとしています。このダムは完成すれば高さ42mと日本で五番目に大きいものといわれています。しかもダム建設予定地はこの谷で最も美しい場所であり、ダム堆砂により上流約1Km強の美渓と多様な渓流生態系が土砂の下に埋まります。

 流域には絶滅危惧種のイヌワシ、クマタカも見られ、谷沿いにはヤマセミ、カワネズミ、イワナ、サンショウウオ、多くの水生昆虫、コケ類、植物など渓流特有な生物が豊富に生息しています。北沢にはすでに二基の砂防ダムが造られていますが6号砂防ダム工事も含め3つのトンネルも完成しています。ダムとトンネルのセットはこれからの砂防ダム工事の典型的なスタイルだと思われます(多額な予算の使い方)。

 また、トンネル工事の排土を谷の中に盛り土(放置)し、その流出で下流にある4,5号の砂防ダムが満砂する(土砂を止めるという砂防ダムの機能が大きく損なわれる)というおかしな現象も生じております。谷は元々多くの蛇行部、拡幅部、狭窄部などをもっていますが、これらの場所は土砂を堆積させる性質があります。こういった(渓流が自然に持っている)土砂の調節機能のある場所をわざわざ人の手によって無くすことこそ本末転倒な砂防理論ではないでしょうか。ここ、島々谷にはこのような場所が三カ所もあります。

 北沢の4号、5号、6号砂防ダムは僅か2〜3百メートルの間に連立し、4号砂防ダムは5号砂防ダム工事で満砂し、5号砂防ダムは6号砂防ダム工事によって出された土砂により満砂になるというバカげた状態にあります。(砂防のための工事なのに、下流の砂防ダムの機能を大幅に失わせている)

最近の土砂生産の現状

 99年6月の大雨(30年に一度)で多くの土砂が出ましたが、私たちの調査によれば南沢、北沢流域の土砂流出よりも3号砂防ダムに入る小たけ沢の土砂、および3号砂防ダムと0号砂防ダムの間に供給された土砂の方がより深刻な状態でした。特に林道建設による崩れが顕著に現れていたのが印象的でした。今回のことで仮に6号砂防ダムをつくっても下流部が確実に安全になるとは限らないことがはっきりしたと思っています。


 私たちは6号砂防ダム建設を止めさせるために様々なことをやっておりますが、詳しくは私たちのホームページを見ていただければ分りやすいと思います。現在は生態環境調査中にて工事が休止になっておりますが、来年度には工事が再開される可能性があります。
 島々谷は日本の砂防事業の悪い典型を比較的簡単に見ることのできる場所だと考えておりますので是非一度この場所を見学して頂き、砂防という公共事業の本質的な問題点を全国的なものとするため、また、建設工事を中止させるためのご協力をお願い致します。
 なお、「公共事業を考える議員の会」においてもこの問題を考えるきっかけとなれば幸いです。