天竜川上流域の在来イワナの分布と保全に係わる問題点

    宮崎敏孝(信大農)     
岸 秀歳(潟tォレステック)
柳生将之(信大院)     

〔背 景〕

 1989年、建設省河川局は河川・砂防行政の柱のひとつとして、河川生態系に配慮する施策を推進する旨、公表・通知した。当時、そのようなマニュアルは無く、当面は試行錯誤を前提として事業を進めていかざるを得なかった。
 信州大学農学部の立地条件から、渓流魚にとって好ましい生息空間(河床形態)の現況調査に着手し、幾っかの知見を確認し、報告してきた。1997年建設省砂防部は全国で『渓流環境整備計画』の策定を推進し、長野県下でも16の出先機関でその検討委員会がもたれた。宮崎が係わった8検討委員会のうち3委員会でそれぞれ独自に、“在来イワナの聖域”の存続(保全維持)について、強い要望が表明された。

〔調査地域・方法〕

 中部地域の太平洋に流入する河川上流域にはヤマトイワナ〔Salvelinus leucomaenis f.japonius OSHIMA〕が在来種とされている。近年の釣り人の急増に伴う『釣り圧』に対応して、各漁業協同組合では生魚・稚魚の放流事業を拡大・展開してきている。放流イワナには人口繁殖・養殖が確実な日本海型ニッコウイワナ〔Salvelinus leucomaenis f.pluvius〕が選択されているが、その生息・分布実態は把握されていない。また、釣り人にとっては"在来種”と"放流種”の識別・認識よりは、“釣れること"が優先選択されているようである。
 天竜川上流域の支川の"在来種”と“放流種”の分布実態を把握することとし、生息に関連する要因を調査展開する方針とした。生息数の確認をより確実にするため、潜水目視・描獲法とし、背面の斑紋の有無による形態識別で行った(図−1)。調査範囲は予備調査で在来イワナを確認した、9支川2支流を対象とした(図−2)。淵の容積(図−3),流量および水温・水質等を測定した。

    

〔調査結果〕

 調査結果の一部を示すと、(図8),(図9),(図15)および(図19)になる。河川平面図に生息数,滝,横断構造物〔砂防・治山事業の堰堤,谷止め,床固め〕ならびに道路〔生活道路,林道,工事用道路〕を記入した。黒丸は在来種,白丸は放流種を示し、多数の生息個体を確認していることと、“在来種”と“放流種”の分布実態が表現されている。『道路』が放流地点を代弁している一方、横断構造物が“在来種”と "故流種" の生息空間の制限要因になっていることが読み取れる。

 


    

 在来イワナの生息域を主題にして、分布を類型・模式化すると図−4のようになる。在来イワナのみの生息区間が確認されたのは4流域で、一河川に並行する道路の終点が生息区間より下流であった。一方、7流域では在来,放流の混生流域で、道路が最上流の横断構造物より上流に延伸していた。在来イワナのみの生息区間は図−5に示すように滝および横断構造物で区切られていて、イワナの遡上降下を制限している(生息空間を分断)現況が示された。

〔在来種存続への提言〕

 直接的な関係者となる河川管理者,内水面漁業管理者(漁協),釣り人ほかの合意形成によって、全国的な社会的釣りモラルを醸成する工夫が前提となる。
@放流禁止区間の設定(放流地点の見直し)。
A禁魚流域の設定.禁魚区間を長く設定。
B禁魚期間を数年設定.キャッチ&リリース区間の設定。
C道路通行禁止区間を広げ、厳正な管理運用。
D河川横断構造物の改修・撤去(遡上・降下が可能な構造)。
E人口産卵床の造成による在来種の繁殖の援助。

〔提言の具体事例は当日示す〕


※本資料は、第3回渓流保護シンポジウムの資料集をOCRで認識したものです。
  認識の誤りによる誤字等があるかも知れませんのでご了承ください。  (渓流保護ネットワーク 吉沢)