1.ワクチン接種


【 ワクチン接種の意味 】

 伝染病に 「かかる」 か 「かからない」 かは 『病原体の強さ』 と 『本人の抵抗力(免疫力)の強さ』 によって決まります。

 病原体が弱くても、本人に抵抗力が無ければ簡単に伝染病にかかってしまいますが、病原体が強くてもそれを上回る抵抗力を持っている場合には伝染病にかからない、もしくは発症しないこともあります。

 人間を含む動物は一度からだに入ってきた病原体などの異物を排除できた場合には、その異物に対して免疫力を獲得し、次ぎにそれらが侵入しようとしたときには抵抗力を示すことができます。

 「病原体を発症しない程度に弱めたもの」 や 「病原体の一部分」 などの 『異物』 を接種すると、健康なからだはそれを排除しようと頑張り、結果としてそのとき接種した異物を排除する能力がつきます。
 この働きにより、つぎに 「強めの病原体」 や 「病原体そのもの」 が入ってきたときにもスムーズに異物排除ができるのです。

 ワクチンを接種することによりペットは 「以前はなかった免疫力」 や 「前以上の免疫力」 が獲得できるのです。


【 なぜ毎年必要なのか 】

 残念ながら、この 「免疫の記憶」 は長く維持されるものも、すぐになくなってしまうものもあり、定期的な “免疫力の強化” = “記憶の維持” が必要になります。

 そのために定期的な追加接種が必要になります。


【 なぜ子犬・子猫は複数回の接種が必要なのか 】

 大きく分けて二つの理由があります。

 「母子免疫(移行抗体)」 の関係と 「ブースター効果」 によるものです。


 本来、子犬・子猫は病気に対する充分な免疫力を持たずに生まれます。

 ところが、生まれて数時間のあいだに飲む 『初乳』 とよばれる特別な母乳から “母親がつくった抵抗力の源” = “抗体” (移行抗体) を譲り受けることにより、母親譲りの免疫力を獲得します。

 これを 「母子免疫」 とよびますが、あくまでも自分で作り出したものではなく、ひとから譲り受けたものであるため、抗体量の減少とともにしだいに免疫力は低下していき、ついには病原体排除ができなくなります。

 このような状態にあると、伝染病に容易に感染してしまいます。

 そのために自分で作り出した免疫力が必要となるわけです。

 しかし、母子免疫が残っているうちはせっかくワクチン接種をしても、母親譲りの抗体によりワクチンが打ち消されてしまい、子犬・子猫自身の免疫力獲得に充分な刺激とならずになくなってしまいます。

 あえて子犬・子猫自身にワクチンと戦ってもらう必要があるのです。

 だからといって、移行抗体を上回るほどの強さのワクチンを接種することにより、子犬・子猫自身が発病・発症してしまっては何の意味もありません。
 ワクチンはそれ自身では絶対に発症しないように作られているのです。

 つまりは

  1. 移行抗体が充分にあり、発症しにくい時期 (ワクチン接種の必要性がない時期)
  2. 移行抗体が減少してきて、感染の可能性があるが、まだワクチンは効かない時期
  3. 移行抗体の減少が充分で、きちんとワクチンが効果を発揮する時期

 の3段階があるわけです。

 1・2の時期にワクチン接種をおこなっても “もったいない” だけで何の効果も出ません。
 3の時期に来てからでなければワクチンは効かないのです。

 1の時期は移行抗体により、3の時期はワクチンの刺激で作った自分の抗体により抵抗力がありますが、2の時期は免疫力による感染防御の手立てがありません。
なるべく2の時期を短くすること、3の時期になりしだいワクチン接種をおこなうことがカギになります。

 免疫力が低下する時期は始めに譲り受けた移行抗体の量が多ければ遅くなり、少なければ短くなりますが、それを推測することは困難です。

 以上の理由から、確実性をあげるための 『複数回の接種』 がもとめられるのです。

 

2つ目の理由は 「ブースター効果」 を必要とする場合があるためです。

 ワクチンの種類・形態によっては、ある程度免疫力が上がったところでさらにワクチンによる刺激を与える必要があります。

 以前の刺激に対する反応が残っているうちに再刺激をおこなうと飛躍的に免疫力が増強されるのです。

 これをブースター効果とよびますが、ワクチンの種類によってはこの効果を狙い、複数回の接種が必要となるのです。

 
 以上の2つの理由で、適切な時期に適切な方法でワクチン接種をしなければ充分な効果を期待できず、結局はワクチン接種をしているのに発症してしまうことがあるために複数回の接種が必要になります。

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