むかし むかし
「おっし、こんなもんか」
金槌の鳴る音が一段落すると、小屋の壁には小さいながらも使用に耐えそうな棚が出来上がっていた。
「少し曲がってるけど、俺が使うもんだしな。こんくらい気にならねーか」
棚板に手を当てて満足げに頷くと、スハルは室内へと向き直る。十歩も歩けば一周できそうな室内はこの半月で、物置から人の住める部屋へとこざっぱりと片付いていた。
「大体片付いてきたな。今日から、ここで寝るのか?」
小屋の出入口を箒で掃いていたジェイルが、作業の終わった気配に気付いて問うてきた。
「いや、今から布団運ぶのも面倒だし、埃もまだ立ってるし。明日にするよ」
「そうか」
掃き掃除を一通り済ませると、ジェイルは箒を壁に立てかける。そうして同じようにここ半月の成果をスハルと共に見回していたが、その沈黙にそっと波紋を立てた。
「聞くのも今更だが…何故、引っ越しを?」
「うーん…なんて言うかさ、けじめを付けるため?」
「けじめ?」
「自警団にも入るわけだし、その、皆に甘えてばっかじゃ駄目だよなぁって、思ってさ」
「そうか、だが…」
「あ、別に全部が全部一人でやろうなんて思ってないぜ?」
ジェイルの様子に語弊に気付いたのか、スハルは慌てて首を横に振って言い添えた。
「頼る事は、やっぱ頼ると思う。でもそれをさ、当たり前だって思ってるのも何かなーって、さ」
「だから、村長の家を?」
「まあね。あと、こないだの夜中にものすごく練習したくなってさ。庭に出て素振りしてたらシス姉に泥棒と間違えられて…脅かしちまったし。それもある」
「成程な」
ジェイルは苦笑しつつ頷いた。
スハルの誕生日は、自分達のように母親の胎から産まれ出た日を差してはいない。それは道端に棄てられていたらしい彼がこの村の一員として受け容れられた日を意味している。だから本当の歳も不明だが、自分やマリカの産まれた頃と殆ど違わない為、自分達も周りも、彼を同い年として扱っている。
おかげで双子同然に育ってきたとはいえ、血の繋がりのない年頃の男女を同じ屋根の下に置くというのは娯楽に乏しい田舎の人々の余計な推測をかき立てるものらしく、村長としてはエスカレートする前に手を打ちたかったのかもしれない。例えそれが、彼の育ての親の意に沿わないものでも。
「メシとか風呂はまだ世話になるし、他はどっちかってーと自警団の方にいると思うし。こっちは半分、物置みたいなもんかな」
「それもそうだな」
「うっし、陽が落ちきる前に、片を付けちまうか!」
ひとつ伸びをして気合を入れ直し、スハルは部屋の隅に置かれた袋に手を掛けた。中に手を突っ込むと、完成したばかりの棚に細かな家財を手際よく並べてゆく。
「メシに遅れると、シス姉うるせーし。あ、シス姉の事だからきっとお前の分も作ってるぜ?」
「そうだな。寄らせてもらうか」
「じゃあ、とっとと片付けて帰ろうぜ」
そう言って作業を再開したスハルは、背後で漏らしたジェイルの苦笑には気付くことはなかった。
「帰る、ねぇ…」
あの家族も、まだ寂しがる必要はなさそうだな。
そう独りごち、ジェイルはまだ立て付けの悪さが気に掛かるドアの金具を覗き込んだ。
文字通り突発で、キャラの流し書きがてら冬コミと大阪冬の陣にてペーパー配布した物です。時間設定は約3年前、リウが来るちょい前位で。
因みにまだドラマCD聞いてません…や、苦手なんですドラマ全般が… |