今日は近所の神社でお祭りをやっている。もうはしゃぐ年代ではないが、出店から漂う”焼きそば”や”たこ焼き”のソースの香りに、ついつい心が揺れ動いてしまう。
賑やかな参道をのんびり歩いていると、知った顔の二人が”わたあめ”を頬張っていた。年齢はオレと同じだが、精神年齢はまだ小学生の「あおい」と「たかし」である。
|
|
オレ
|
よう。二人してお祭りデートか?
|
|
あおい
|
あ!
|
|
たかし
|
うわ!
|
|
オレ
|
あれ?その驚き・・・、まさか、おまえ達、本当に付き合ってんの?
|
|
あおい
|
違うよ。あたしは、嫌な男に遭っちゃったなぁ・・・って思っただけ。
|
|
オレ
|
嫌なヤツで悪かったな!
|
|
たかし
|
おいおい、あおい。そこまで言うなよ。
|
|
オレ
|
おお、さすがはたかし。オレのことを理解してるな。
|
|
たかし
|
オレは、ムカつくヤツに出くわしたなぁ・・・って思ったんだよ。
|
|
オレ
|
おまえ、言い方違うだけで、あおいと同じじゃん!
|
|
あおい
|
あはは、気にしない気にしない。いつものことじゃん。
|
|
たかし
|
そうそう。所詮、おまえはいじられ役。
|
|
オレ
|
へーへー。いじりたければ、いじりまくればいいさっ!
|
|
あおい
|
それはそうとさ、あなた何しに来たの?
|
|
オレ
|
あのさ、オレがここに来て、勉強でもしに来たように見える?
|
|
たかし
|
お祭りに来て勉強するバカいるわけないだろ。
|
|
オレ
|
そうだろ?
|
|
あおい
|
え?いるじゃん、ここに。
|
|
オレ
|
いや、だから、オレは勉強しに来たわけじゃないよ。
|
|
たかし
|
じゃあ、何しに来たんだ?芸者遊びなら、隣町だぞ。後で連れてくから、もう少し待ってろ。
|
|
オレ
|
勝手に連れていくなよ。
|
|
あおい
|
芸者遊びいいよねぇ。ワクワクドキドキだもん。楽しみ〜!
|
|
オレ
|
え、あおいも行くの?おまえが行って何が楽しいの?
|
|
たかし
|
楽しいに決まってるさ。だって、芸者の格好して、三味線持って、公園でライブするんだもん。
|
|
オレ
|
え・・・、何それ?
|
|
たかし
|
何って、芸者になりきっちゃう遊び。略して、芸者遊び!
|
|
オレ
|
それを芸者遊びとは言わん!芸者の格好でライブって、それじゃ単なるコスプレのストリートミュージシャンじゃないか。
|
|
たかし
|
違うって。おまえが勝手に勘違いしたんだよ。
|
|
あおい
|
ねぇ、あなた芸者遊びって言葉で、いやらしいこと想像したでしょ?
|
|
オレ
|
そ・・・そんなことないよ。ははは。
|
|
たかし
|
おまえのエロさ、今日も満開だな。はっはっは!
|
|
オレ
|
意味わかんない、それ・・・。
|
|
たかし
|
さーて、それじゃ、もう少し奥の方へ行ってみようか!
|
|
あおい
|
うんうん!
|
|
オレ
|
あの〜、オレも付き合うの?
|
|
たかし
|
あたり前じゃん。それとも、一人きりがよかった?
|
|
あおい
|
言っておくけど、一人きりは寂しいよぉ。周りにいる人からは、孤独のお祭り野郎って呼ばれちゃうよ。
|
|
たかし
|
そうそう。このままじゃ、お祭りたそがれくんって感じだぞ。はっはっは!
|
|
オレ
|
だから、意味わからんっちゅーねん。
|
|
オレ
|
おお、相変わらず怪しいなぁ、ここは。
|
|
たかし
|
すげぇ。見世物って何だ?
|
|
あおい
|
あの変な顔のおじいちゃんが言うには、顔が人間で、体が人の形した怪物だってさ。
|
|
オレ
|
おい、それ普通の人間じゃん。それを言うなら、顔が人間で、体が蛇の形した怪物だよ。
|
|
あおい
|
え、蛇の形してんの?それじゃあ、蛇じゃない。
|
|
オレ
|
いやいや、だから、顔が人間なんだよ。だから怪物なんだろ?
|
|
たかし
|
顔が人間なんだろ?だったら、人間じゃないか!
|
|
オレ
|
おいおい、いい加減にバカやめろ。顔が人間で!体が蛇!二つを合わせろよ。これが人間と思うか?
|
|
あおい
|
人間じゃないねー。
|
|
たかし
|
同感だ。
|
|
オレ
|
よしよし、やっとわかってくれたかアホどもよ。
|
|
あおい
|
でもさぁ、何で体が蛇なんだろうね。手足ないからご飯食べにくいよね。
|
|
たかし
|
う〜ん、あおいの言う通りだな。きっと辛い日々を過ごしているに違いない。
|
|
オレ
|
あのな、あの小屋の奥にはね、怪物なんかいないんだよ。これは見世物だからね。
|
|
あおい
|
えー?それじゃあ、あの変な顔のおじいちゃんが言ってる怪物っていないの?
|
|
オレ
|
あたり前だろ。顔が人間で体が蛇の怪物なんかいるわけないじゃん。この見世物小屋はね、珍しい生き物がいると見せかけて、オレ達お客をだまそうとしてるの。
|
|
あおい
|
えー?あの変な顔のおじいちゃん、あたし達をだまそうとしてるの!?
|
|
オレ
|
おまえ、変な顔にこだわり過ぎだぞ。ま、早い話、そういうこと。ほら、他のところ行こうぜ。
|
|
たかし
|
あ、わかったぁ!
|
|
オレ
|
・・・な、何だよ、いきなり。
|
|
たかし
|
おまえさ、本当は怪物が怖いんだろ?だから、いないいないって否定的なんだろ?
|
|
オレ
|
はぁ?バカ、違うって!
|
|
あおい
|
なるほどねー。あなた、そういえば筋金入りの怖がりだもんね。今でも、ヤクザ相手に文句言えないでしょ?
|
|
オレ
|
誰だって怖いわ、そんなもん!と、とにかく、オレはおまえ達に真実を言っているだけだ!
|
|
たかし
|
ごまかさなくていいって。誰だって怖いもんはあるんだからさ。オレだって、不二家のペロちゃんの舌をみると身震いするもん。
|
|
オレ
|
な、何で震えるの?意味わからん。
|
|
あおい
|
あ、それ雰囲気わかるなぁ。
|
|
オレ
|
え、今のセリフに雰囲気とか漂っていたか?
|
|
たかし
|
おまえ、そこまで言うならさ、ここに入って勇気があるとこ証明してみろよ。
|
|
オレ
|
ちょっと待て。何で、オレがおまえ達のために、そんな無駄なことしなきゃいけないの?
|
|
あおい
|
だって、あなた、このまま怪物怖がってちゃ、ちゃんとした社会人になれないよ。
|
|
オレ
|
い、いや、もうオレ社会人なんだけど・・・?
|
|
たかし
|
つべこべ言わずに入ってこい!つまり、人間なんて怪物と紙一重ってことさ。はっはっは。
|
|
オレ
|
何が紙一重なんだか意味わかんねぇーよ!
|
|
あおい
|
ほらほらぁ!早く!早く!おじいちゃん、コイツ一人だけ入場ね!
|
|
オレ
|
わー!だまされるなって言ってたオレが、結果的にだまされてるじゃんかぁ!!
|
|
オレ
|
おお、この辺は楽しそうだな。
|
|
あおい
|
あ、これ射的ゲームでしょ?あそこはダーツゲームもある。
|
|
たかし
|
おもしろそうじゃんか!よし、遊んでいこうぜ。
|
|
オレ
|
え?何やるんだよ。
|
|
たかし
|
決まってるだろ。片っ端から全部だよ。
|
|
オレ
|
おいおい、無茶言うなよ。一つに絞れよ。
|
|
あおい
|
それは無理だよぉ。たかしくん、昔から欲張りだからね。
|
|
オレ
|
いや、欲張りとか欲張りじゃないとか、そういう問題じゃねぇーよ。
|
|
たかし
|
わかったよ、おまえがそこまで頼むなら、しょうがない。一つにしてやるさ。
|
|
オレ
|
そんなに熱心に頼んでないけどな。ま、順当な判断だと思うよ。で、何にするの?
|
|
たかし
|
これ。
|
|
あおい
|
あ、輪投げかぁ。おもしろそうだね。
|
|
オレ
|
よし、それじゃこれに決定だな。
|
|
たかし
|
じゃ、よろしく。
|
|
オレ
|
は?何この手は?
|
|
たかし
|
オレ達お金ないもん。おまえお金出して。
|
|
あおい
|
そうそう、あたし達、わたあめ買っちゃったからねー。
|
|
オレ
|
おまえ達さ、お祭りなのに、わたあめ買えるだけの小遣いしか持ってきてないのか?
|
|
たかし
|
え、十分だろ?あとは見て楽しめるもんばっかりだしさ。
|
|
オレ
|
その割には、威勢良く片っ端から全部やろうとかよく言えたもんだな。
|
|
たかし
|
ああ、おまえのお金でな。
|
|
オレ
|
やかましい!ジョーダンは顔だけにしろ。
|
|
あおい
|
それより、早くやろうよぉ。
|
|
オレ
|
へいへい。じゃあ、300円払います。
|
|
たかし
|
よし、300円で、輪が5つあるから、3人で分けよう。
|
|
あおい
|
さんせー!
|
|
オレ
|
オレの意見なしに勝手に決めるなよ!
|
|
たかし
|
オレとあおいが2つで、おまえは1つでいいよな?
|
|
オレ
|
何でお金出してないおまえらが、お金出してるオレより輪が多いんだよ。理不尽じゃないか。
|
|
あおい
|
あー!お金がないって言ったぁ。それ、差別用語だよ!法律相談所へ電話するよぉ。
|
|
オレ
|
こんなことで弁護士に相談するな!
|
|
たかし
|
落ち着けよ、まったく・・・。オレがいないとすぐこれだ。やっぱりオレが仕切らないとダメじゃないか。
|
|
オレ
|
いや、成り行きでこうなっただけで、別におまえが仕切る必要はないと思うけど・・・。
|
|
たかし
|
よし、ここはオレが譲歩してだな。オレが1こで、あおいが3こ。これでいいな。
|
|
あおい
|
さんせー!
|
|
オレ
|
・・・オレの個数、結局変わらないのね。
|
|
あおい
|
よーし、あたしからだよぉ。あたし、あのかわいいの狙うよ。
|
|
オレ
|
かわいいのって何だよ?
|
|
あおい
|
ほら、一番手前にある黄金色したお城の模型だよ。
|
|
オレ
|
どこがかわいいんだよ、あんなの。
|
|
あおい
|
よく見てよ、ほら。お城の天守閣にある”しゃちほこ”かわいいじゃん。
|
|
オレ
|
模型自体が小さすぎて見えないよ!おまえ、視力いくつあるんだよ。
|
|
たかし
|
よし、オレはあの男らしいのを狙うぞ。
|
|
オレ
|
何だよ、男らしいものって?
|
|
たかし
|
あの左端にあるジャイアンの模型に決まってるじゃん。
|
|
オレ
|
それさ、キャラクターは男らしいけど、品物は幼児向けじゃないか?
|
|
あおい
|
ああ、3つともはずれちゃったぁ!悔しいなぁ・・・。
|
|
オレ
|
はは、残念だったな、あおい。
|
|
たかし
|
くそー、オレもダメだったぜ。あのジャイアン、曲者だぞ。
|
|
オレ
|
おまえの腕が悪いだけだって。さーて、オレは何を狙おうかなぁ・・・。
|
|
あおい
|
ちょっと、何探してるのよ。あたしのお城に決まってるじゃない!
|
|
たかし
|
いやダメだ!オレのジャイアンに決まりだぞ。
|
|
オレ
|
え?な、何言ってんの、おまえ達・・・!?
|
|
あおい
|
お・し・ろ!!
|
|
たかし
|
ジャ・イ・ア・ン!!
|
|
オレ
|
か、勘弁してくれよ〜。これぐらいは好きなもの選ばせてくれ!それっ!!
|
|
あおい
|
あ!
|
|
たかし
|
お!
|
|
オレ
|
わ、入った!・・・あれ、これキャラメルだ。
|
|
あおい
|
あ、あたし、それでもいい。
|
|
たかし
|
オレも。
|
|
オレ
|
おまえらはハイエナかっ!
|
|
あおい
|
あはは、ごめんちゃい。また3人でわけようよ。
|
|
オレ
|
はいよ。
|
|
たかし
|
ん?このキャラメル、5個入りか。
|
|
オレ
|
・・・。
|
|
あおい
|
じゃあ、あたし2個で、たかしくん2個、残りがあなた。これで決まりだね!
|
|
オレ
|
いい加減にしろぉ!!
|