今日は仕事もスムーズに終わり、会社帰りに、オレは夕食を済まそうと居酒屋へ行くことにした。最近、帰り道沿いに、ちょっと”こじんまり”としたお店ができたのだ。
 午後6時を過ぎたばかりのお店の暖簾をくぐると、店内にはお客はいないようだった。カウンターの奥から、鼻ヒゲを生やした店主らしき男性が姿を現した。
 
 
マスター あ、いらっしゃい。
オレ どうも。いいですか?
マスター どうぞ!何名さん?
オレ あ、一人ですけど・・・。
マスター あ、お一人さんですかぁ。へー、一人ぼっちですかぁ。
オレ いや、一人ぼっちはやめてくれません。何か、その表現、むなしいんですけど。
マスター ははは。どうぞ、カウンター座ってください。
オレ じゃ、失礼します。
マスター あ、お客さん。申し訳ないけどさ、二つほど隣の席にしてくれません?
オレ え?ええ、いいですけど・・・。でもなぜ?
マスター ああ、今お客さんの座った席ね、昨日、飲み過ぎたオジサンが、ゲロ撒き散らしちゃってね〜。
オレ そ、そういうことはもっと早く言ってくださいよっ!!
マスター ははは、ごめんなさいね。すっかり忘れてた。お客さんが椅子引いた際に香ってきた”におい”で思い出しましたよ。
オレ う・・・。これから、食事するというのに・・・。
マスター ははは、気にしないでください。昨日軽く洗いましたから!
オレ 軽く!?いや、重点的に洗いましょうよ!
マスター ははは、もう大丈夫ですよ。心配性だな、お客さん。
オレ そういう問題じゃないと思う・・・。
マスター で、飲み物、何にします?
オレ えーと、とりあえず、生ビールもらえますか?
マスター いやぁお客さん、タイミングが悪かったねぇ。今日は生ビール切れちゃったんですよ。
オレ え?切れちゃったって・・・。まだ6時過ぎですよ。もう切れちゃったんですか!?
マスター いや、実はね〜。臨時で団体さんの予約が入ってね、昼過ぎにお店開けたんですよ。
オレ ああ、そうだったんですか。
マスター いやね、”たそがれ老人会”のね、80歳のじいさん達の会合だったんですわ。
オレ 80歳で、居酒屋ですかっ!?すごいですね。
マスター そうなんだよ。しかもメンバー3人で大盛り上がりでしたから。
オレ さ、3人って・・・、80歳の3人で生ビール切らしちゃったんですかっ!?すごい老人達ですね。
マスター あれは、ある意味、宇宙人ですねー。
オレ うーん、納得・・・。
マスター で、飲み物どうしましょ?
オレ 瓶ビールありますか?あるなら、それでお願いします。
マスター はいよ!銘柄は何にします?
オレ 銘柄?”キリン”とか”アサヒ”とかのこと?
マスター そうそう。もしよければ、ウチの自慢の地ビールはいかが?数種類用意してますよ。
オレ へー、地ビールですか。どんなヤツですか?
マスター まずは、北海道原産、知床山の天然水から生まれた最高のピュアモルト、”富士山の光”!
オレ ・・・北海道原産なのに、”富士山”っておかしくない!?
マスター それじゃあ、北陸の清流、浅野川の湧き水から作ったビール、”涙の北陸本線”!
オレ ・・・その名前、何か、演歌のタイトルみたいだけど・・・?
マスター それじゃあ、九州は阿蘇山の雪解け水から誕生した端麗な味、”ようこそ、阿蘇へ!あの娘によろしく。気合だ、負けるな!”はどう?
オレ ・・・長〜〜い。どこまでが名前なのかよくわからないし。あと文章、ぜんぜんつながってないよ。
マスター よーし、次はね・・・。
オレ あの、キリンの普通の瓶ビールください。
マスター うそー、まだいっぱいあるんですよぉ。もう少しいいじゃないですかー。
オレ もういいです。この後も予想できるから。それより、おつまみは何があります?
マスター お、待ってました!ここにオススメ書いてありますから、じゃんじゃん選んでくださいよ。
オレ えー・・・っとね。それじゃあ、ヤキトリの皮と砂肝ください。
マスター ん、ヤキトリか・・・。
オレ あれ?あまりいい表情じゃないけど、大丈夫ですか?
マスター 一応聞くけど、ウインナー盛り合わせじゃダメ?
オレ う〜ん、却下。
マスター そうかー。でも、ヤキトリ出来上がりに1時間ほどかかるけど、いいですかね?
オレ 1時間も?そんなにかかるんですか?
マスター だってしょうがないよ。近所のスーパーまで鶏肉を買いに行かなきゃだから。
オレ 買いに行く!?お店に材料ないの?
マスター うん。注文あり次第、仕入れるからね。
オレ うそー、居酒屋で受注生産ですかぁ!?
マスター あ、でもね、スーパーに鶏肉なかったら、強制的にウインナー焼きにメニュー変更だけどね。
オレ うわー、またウインナーかー。でも、それで、よくオススメなんて書けますね。
マスター だってさ、そのスーパーの鶏肉、結構、高級ブランドもんでね、味も最高なんですよ。
オレ それじゃ、スーパーのオススメじゃん!
マスター とりあえず、行ってくるから留守番頼みますよ。
オレ 待って、待って!ヤキトリはやめる。他のにします。
マスター え、いいの?ホッ・・・。
オレ あれ?今、安堵な表情浮かべなかった?やっぱり、行きたくなかったんじゃないの?
マスター 嫌だなー、意地悪なお客さんだよ、あんたは。
オレ オレから言わせれば、ここも結構、意地悪な居酒屋だと思うけど?
マスター ははは、さーて、気を取り直して、お料理何にしましょう?
オレ じゃあ、モツ煮込みにします。
マスター 煮込みですか?A、B、Cのどれにしましょうか?
オレ は?A、B、Cって何?どんな違いです?
マスター Aは、モツの代わりが牛スジになります。そして、Bは、モツの代わりに牛テールが入るんですわ。
オレ へぇー、いいですね、それ。じゃあ、Cが普通にモツですか?
マスター Cは、モツの代わりにウインナーが入ります。
オレ またウインナー!?どこまでウインナー押すの?
マスター さぁ、A、B、Cどれにしますか?
オレ それじゃあ、無難にAにします。
マスター ・・・。Cはダメ?
オレ あの、その訴えかけるような言い方で聞いてこないでくださいよ。そんなにウインナー食べさせたいの?
マスター 実はね、ウインナーが一番のオ・ス・ス・メ!
オレ 言い方が、気持ち悪い。もう、わかりましたよ!それじゃあ、ウインナー料理にします。早く作って。
マスター お!毎度〜。最高ー、ヤッホーー!!
オレ そんなにうれしいのか・・・!?
 オレはキリンの瓶ビールを飲みながら、茹でたウインナーを口にした。店主が強引にまで押しただけあって、結構おいしくいただけた。
 茹でたウインナーを一通りいただくと、お酒もほどほどにし、オレはお店を後にすることにした。
 
 
オレ マスター、お愛想して。
マスター はいよ、ありがとうございました。
オレ また機会があれば、お邪魔しますよ。
マスター お、待ってますわ。また来てくださいよ。
オレ それじゃ、ご馳走さまでした。
マスター おお、そうだ、お客さん、最後に記念品があたるクジやっていく?
オレ え、何それ?
マスター オープン記念のクジですよ。まだ1等が出てないから。
オレ せっかくだから挑戦します。
マスター はい、どうぞ。
オレ これだ!
マスター おおお!これ、1等じゃないですかー!すごい、お客さん!
オレ やった!運がいいな。で、記念品って何ですか?
マスター ニッポンハムのウインナー詰め合わせギフトです。
オレ しつこーーーい!!

 
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