もともと機械系を志望するも、工学部とは言え、理学部に近い学科に行ったため、大学時代に4年、

入社以来3年、計7年間にわたり、レンズに携わった。

 けれど、僕の時代はすでにキャノンがミノルタに対抗してEOS650を発表した時で、つまりレンズの

結像性能はほぼ完成されていた。おかげで「写ってない写真」なんて見たことがない。だから先輩将校に

「良い像」「悪い像」と言われても正直なところピンと来なかった。

 そこで、むしろバランスの崩れたレンズによる結像状態は、どのように悪いのかという関心を抱いた。

サルバドール・ダリ(代表作:まがった時計)やルネ・マグリット(代表作:白紙委任状)あるいは、

騙し絵の巨匠M・C・エッシャーに触発された時期と重なった。そういう中で騙し写真に取り組んだ。

 

 写真術には撮影術と現像術があるが、最近流行のCGなどは現像術の成れの果てである。ここに見せるのは

あくまでも撮影術のみを使った写真で、けして複数の絵を切り貼りした物ではない。こう言うと写真に造詣が

深い輩は「あぁ、これ多重露光ね」と片付けることだろう。

 多重露光、一度撮影したコマを巻き上げずに、その上から重ね撮りをする撮影技法である。しかし欠点は

互いの像(一度目の撮影による像と二度目の撮影による像)が干渉して霞がかかったように眠くなる。

次に見せる作品が多重露光を利用した写真である。最初に鏡に映った時計の正面にピントを合わせて撮影し、

後に手前の本物の背面を撮った物である。

 さて、冒頭にお見せしたサカサマの写真はどのように撮影したのだろうか? 是非ともご意見を賜ろう。

ヒントは、「撮影回数は1回のみ」である。