解析条件
車両の形状が左右対称であることを考慮して、左半身のみをモデル化した。(中央には、対称境界を設定するので
解析結果は左右モデルと同様となる)
更に車両後半(エンジン&ミッション、リア・サス&タイヤ、デフューザー、リヤ・ウィング、インダクション・ポッド)は省略した。
また、以前に施行した車両全体の解析において大して支配的ではなかった要素(コクピット、フロント・サス、
フロント・ウィングのステー)も省略した。 (下図を参照)
今回の検討では、SPW(Side Pontoon Wing 便宜上 SPW と呼ぶことにする)が装備された場合と、SPWが無い場合を
比較するが、計算コスト軽減のため、共通のモデルを使って、2通り(SPWを設定する場合と、設定しない場合)を
計算する。 下図の結果表示において、「設定有り」も「設定無し」も見かけ上同じ形状に見えるのは、そうした事情による。
解析結果
(向かって奥側の対称境界面はモデル形状により青く表示されているだけで、流速分布を表す意味は無い)
考察
整流が当初の目的ならば、流速分布に差異が出るはずだ。(この手の議論で、流れの方向が目に見えるほど変る事は
ありえない)案の定、フロント・ウィング上面の流速は明らかに異なる。サイド・ポンツーン中央断面における流速分布を
比較すると「SPW設定無し」では緑色の低流速域が大きく占めている。また、車軸位置断面の流速分布を比較すると、
タイヤの裏側における流速も、「SPW設定無し」では緑色の低流速域が大きく占めているので、 「SPW設定有り」の方が、
「抜け」が良いのではないだろうか。とすれば、僅かとは言いながらも、「SPW設定有り」では「SPW設定無し」より、
ドラッグが低減されていると考えられる。うがった見方をすれば、トヨタがダウン・フォースに強欲なのは、このような理由で
最高速度の低下を充分に抑制できると読んだからかもしれない。
(向かって奥側の対称境界面はモデル形状により青く表示されているだけで、静圧分布を表す意味は無い)
考察
上図の静圧分布は、相対圧による表示である。また、黄色が弱正圧を表し、緑色が弱負圧を表す。そのため、緑色と
黄色の境が、正圧と負圧が±0 となる部位である。
静圧分布を見ると、流速分布で導いた仮説を裏付けるような結果である。おおざっぱに言えば、黄色の領域がドラッグと
見るべきだろう。タイヤの裏側に絞って見ても、「SPW設定無し」と「SPW設定有り」では差が見て取れる。
では何故、このような差異が生まれるのだろうか? ここで空気ないし水が流れている一本のパイプを考えるとする。
もしも中ほどの一ヶ所にゴミが堆積したとすると、ゴミの手前における圧力が上るはずだ。そこで、ゴミの直前にバイパスを
設けると、ゴミの手前における圧力は下がるだろう。 普段、我々は往々にして空力部品よりも下流を重視しがちだが、
実は整流の効果が出ると、追加した空力部品の直前の部位に気流の変化が起きる場合もあるのではないだろうか?
従って、SPWで淀みを解消すことで、ターニング・ベーンの効果を向上したり、フロント・ウィングのドラッグを
軽減する事を目論んだものと推察する。
追記
続く各チームも順次このアイデアを取り入れたが、これらの整流効果は水平翼によるものではなく、垂直の翼端板に
発生する効能だと突き止めたようだ。よって、垂直の翼端板のみをサイドポンツーンの前方に取り付けた。部品の公称は
「ポッドフィン」だそうだ。結局のところ翌年からトヨタも宗派を改めて、ポッドフィンに付け替えた。(FIAが定めた新規定
により、2009年からは車軸間に配置する空力部品は禁止となる)
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